研究・教育

フィールドワークとは?目的や実施の流れ・メリットについて解説

大学院での研究活動において、フィールドワークは重要な研究手法の一つです。研究対象となる現場に直接足を運び、その場でしか得られない生の情報を収集できることから、多くの研究者がフィールドワークを取り入れています。

本記事では、フィールドワークの概要や目的、具体的な進め方、そして研究におけるメリットについて解説します。大学院の入試に向けて研究計画書を作成する予定の方は、ぜひ参考にしてください。

フィールドワークとは

フィールドワークは、研究者自身が調査対象となる現場に直接赴き、データを収集する研究手法です。英語のfieldworkに由来し、野外調査とも呼ばれています。

フィールドワークの捉え方には、広義と狭義の二通りがあります。狭義では、参与観察と聞き取り調査に限定されているのに対し、広義では現地でのアンケート調査や文書資料の分析など、現場で行うあらゆる調査活動が含まれます。

対象となる学問分野

フィールドワークは、社会学や人類学から始まった研究手法ですが、現在は地質学や地理学、動物行動学など、幅広い分野で行われています。代表的な学問分野は以下の2つの分野に大別されます。

対象となる学問
人文社会科学 社会学、文化人類学、民俗学、考古学、人文地理学など
自然科学 地質学、地理学、動物行動学、動物生態学、古生物学など

 

フィールドワークは、分野を問わず広く活用される研究手法ですが、その実施方法は人文社会科学と自然科学とでは、大きく異なります。

人文社会科学では、現地での観察や聞き取りで直接得た情報をフィールドノーツとしてまとめることが中心となります。フィールドノーツをもとに得られた情報を分類し、分析を行います。これに対し自然科学では、現地に赴き、専門的な器具を用いて研究対象に実証的にアプローチするのが一般的です。たとえば、地質学の場合、ボーリング調査を行い、得られた実物をもとに地質の状態を詳しく調べていきます。

フィールドワークの目的

フィールドワークの主な目的は、文献やインターネット検索では得られない一次データを収集することです。

大学(学部)では現場での学びそのものを目的として、フィールドワークを実施するケースも少なくありません。一方、大学院での研究においては、新規性のある研究成果が求められるため、まだ明らかになっていない事象や既存の理論では説明できない現象を発見し、それらを詳細に記録・分析することが目的となっています。

このように、同じフィールドワークであっても学部と大学院では目的や求められるレベルが異なり、大学院での研究においては、独自性や新規性を高めるための手段として位置づけられています。

フィールドワークを実施している大学院生の割合

全国大学生活協同組合連合会が2022年に実施した調査の結果「第12回全国院生生活実態調査 概要報告」によると、研究スタイル(用いる研究手法)は分野によって大きく異なります。

理工系・医歯薬系の大学院生の70%を超える人が「実験」を主な研究手法としています。一方、文科系(人文科学系・社会科学系)では24.3%もの学生がフィールドワークを実施しており、およそ5人に1人以上がフィールドワークを行っていることが明らかになりました。

このことから、特に文科系(人文科学系・社会科学系)の学生にとっては、フィールドワークは決して珍しい研究手法でないことがわかるでしょう。

フィールドワークでは調査費用がかかる

フィールドワークは実際に現地に赴く調査方法であるため、一定の費用が必要となります。交通費や宿泊費の他、現地で協力者がいる場合には手土産代等もかかる場合があります。インターネット上で入手できるデータを用いる研究に比べると、フィールドワークには金銭面での負担がかかることも頭に入れておきましょう。

大学院によっては、大学院生に対する調査費等の補助制度が用意されていることもありますが、フィールドワークなどの調査費用は、一部自己負担が必要となるケースがあります。全国大学生活協同組合連合会の「第12回全国院生生活実態調査 概要報告」によると、2022年の平均自己負担額は34,280円でした。学部系統別でみると、文科系で36,550円、理工系で28,890円、医歯薬系で46,670円となっています。

また、フィールドワークなどの調査費用以外にも、研究に関連してさまざまな費用が発生します。平均自己負担額と学部系統別の平均は、以下の通りです。

 

平均自己負担額 文科系 理工系 医歯薬系
フィールドワークなどの調査費用 34,280円 36,550円 28,890円 46,670円
専門書・参考文献・教科書・ゼミのテキストなどの書籍代 26,430円 37,820円 14,700円 24,840円
学会費・学会参加費・学会参加のための交通費や宿泊費 23,150円 26,160円 17,900円 41,500円
文具などそのほかの費用 9,220円 12,780円 6,850円 11,580円

参考:全国大学生活協同組合連合会|第12回全国院生生活実態調査 概要報告

大学院の研究でフィールドワークを実施する流れ

大学院の研究では、以下の流れでフィールドワークを進めます。

  1. 研究目的の明確化
  2. 文献の調査
  3. 研究計画の作成
  4. 調査の実施
  5. データの整理・分析
  6. 論文の作成

最初に、フィールドワークを行う目的を明確にする必要があります。具体的には、どのような研究課題に取り組むのか、そのためにはどういったデータをどのように収集するのかを決定します。

次に、既存研究の調査を行い、それらを踏まえて具体的な研究計画を立てます。フィールドワークは得られる効果が大きい一方で、実際の現地調査だけでなく、事前準備にも多くの時間や労力が必要となります。フィールドワークが適切な研究手法であるかをよく検討したうえで用いるとよいでしょう。

計画が固まったら、それに沿ってフィールドワークを実施し、必要なデータを収集していきます。この際、データの質を担保するため、細心の注意を払って記録を行うことが重要です。収集したデータは丁寧に整理・分析を行い、最終的に研究成果として論文としてまとめます。

なお、これらの各段階において、指導教員と密に連絡を取り、適切なアドバイスを受けながら進めることが望ましいです。フィールドワークは一人では進めることが難しい場面も多く、指導教員や他の大学院生との連携が大切になります。

フィールドワークの期間

フィールドワークにかける期間は、研究の目的や規模によって大きく異なります。1週間程度の短期のものから、1年を通して行う長期的なものまでさまざまです。

半期または1年をかけて実施する中長期フィールドワークでは、多くの時間をかけることから深い気づきを得られる反面、授業への出席との両立が難しいというデメリットがあります。一方、夏季休暇などを利用した1週間から2か月程度の短期フィールドワークであれば、通常の授業を欠席することなく実施できます。

自身の学業や研究活動の進め方と現地の調査先や訪問先の都合等をよく確認して、フィールドワークの実施時期や期間を検討しましょう。

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フィールドワークに参加するメリット

大学院でフィールドワークに取り組むことには、研究面だけでなく、キャリア形成の観点からもさまざまなメリットがあります。紹介するメリットは、以下の4つです。

  • 現地でしか得られない情報を収集できる
  • 行動力を身につけられる
  • コミュニケーション能力や協調性を高められる
  • 多くの刺激を受けられる

現地でしか得られない情報を収集できる

フィールドワークの最大のメリットは、文献やインターネット検索では得られない一次情報を収集できる点にあります。現場での観察やインタビューを通じて得られる生の情報は、修士論文や博士論文の独自性を高める重要な要素となり、研究者としての成長につながる貴重な経験です。

行動力を身につけられる

フィールドワークでは、自ら調査計画を立て、現地での人間関係を構築し、さまざまな課題を乗り越えながら調査を進めていく必要があります。この過程で培われる行動力は、研究活動はもちろん、将来のキャリアにおいても大きな強みとなるでしょう。特に近年、企業は主体的に行動できる人材を求めており、フィールドワークでの経験は就職活動でもアピールポイントとなります。研究者を目指さない人にとっても、フィールドワークの遂行は貴重な経験となるでしょう。

コミュニケーション能力や協調性を高められる

フィールドワークでは、現地の方々や共同研究者など、多くの人々と協力しながら調査を進めていきます。その過程でコミュニケーション能力や協調性が磨かれ、また異なる価値観や文化背景を持つ人々との関わりを通じて、多様性への理解も深まっていきます。

特に、現地の方々との関係構築や、研究チーム内での役割分担と協力体制の確立は、社会人として必要不可欠なスキルと言えるでしょう。

多くの刺激を受けられる

現場での調査では、予想もしなかった発見や気づきが得られます。机上の理論だけでは理解できない現実に直面することで、新たな研究の視点や問題意識が生まれます。また、現地で出会う人々との交流は、研究者としての視野を大きく広げてくれます。

時には、当初立てた仮説と現実とのギャップるに気がつくこともあります。そうした発見が新たな研究課題を見出すきっかけとなることも少なくありません。このような気づきは、研究者としての成長において何物にも代えがたい経験となるでしょう。

フィールドワークの参加が向いている人の特徴

フィールドワークには、好奇心旺盛で、新しいことに挑戦する意欲のある人が向いています。先入観にとらわれず、自分の手で情報を集めたいという意欲があれば、新たな気づきを得られるはずです。

また、現地の方々や共同研究者とのやりとりが多いため、コミュニケーション能力も重要となります。ただし、単に話すことが得意なだけでは不十分です。相手の言葉の裏に隠された意味や感情を読み取るためには、じっくりと観察し、相手の話に耳を傾ける傾聴力が欠かせません。

以下の記事では、フィールドワークを実施した修了生の声を紹介しています。大学院進学を決めた理由や、大学院へ進学して良かったことなどの意見も紹介しているため、興味がある方はぜひ参考にしてください。

【究める vol.137】修了生の声 鈴木 将平さん(文学研究科 博士後期課程)

まとめ:フィールドワークは研究の独自性を確保する重要なもの

フィールドワークは、大学院での研究に独自性をもたらす重要な研究手法です。調査の計画や実施には多くの労力を要するものの、そこから得られる学びや経験は何物にも代えがたいものとなります。これらは研究者としての成長はもちろん、将来のキャリアにおいても貴重な財産となるはずです。

大学院進学を検討している方は、自身の研究分野でどのようなフィールドワークが可能か、また指導を希望する教員の研究スタイルなども含めて、じっくりと検討してみてください。

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