大学院進学を控え、研究活動が本格化すると、避けて通れないのが「学術論文」です。「関連する論文を読んでおいて」と教員から指示されたものの、「どこで探せばいいのか」「どう読み解けばよいのか」と戸惑う人も多いではないでしょうか。
本記事では、学術論文の概要や探し方から、論文検索サイト、効果的な読み方、執筆手順までわかりやすく解説します。研究で学術論文が必要となる読者に向けた、実践的な情報を提供します。
学術論文とは
学術論文とは、研究によって得られた新たな知見(研究成果)を、定められた形式に沿って論理的に記述したもので、学術的な価値を有するものです。一般的に、専門家による厳格な審査(査読)を経て、学術雑誌や学会誌などに公表されます。査読では、当該分野の専門家が内容を精査し、公表する価値があると判断された論文が、学術雑誌や学会誌などに掲載されます。
学術論文の目的は、新規の学術的な研究成果やそれに基づく見解を記録し、他の研究者と知見を共有することにあります。
大学院生が博士課程や修士課程における研究の成果として執筆・提出する学位論文(修士学位論文、博士学位論文)も、学術論文の一種です。しかし、学位取得に向けて執筆する学位論文と、当該分野における新たな知見としてより広く世界に向けて公表する一般的な学術論文では、目的や審査を含む公表までのプロセス、公表場所が異なります。
学位論文との違い
学術論文と学位論文は、いずれも研究成果をまとめた文書ですが、目的・読者・審査の方法・公表される場所において、違いがあります。
学術論文 | 学位論文 | |
目的 | 新たな知見を広く世界に公表し、学問の発展に貢献すること | 学位を取得するために、必要な研究能力や知識があることを証明すること |
主な読者 | その分野や関連分野の専門家・研究者 | 指導教員をはじめとする学内外の審査委員 |
審査の仕組み | 同じ分野の複数の専門家が、内容を厳しく審査する | 所属大学の教員が中心となり、審査を行う |
公開される場所 | 学術雑誌や学会誌などで広く公開される | 大学図書館に所蔵される(博士学位論文については原則、各大学の機関リポジトリで公表される) |
特に大きな違いは、査読の有無です。学位論文では学内の教員が「卒業・修了にふさわしい能力があるか」を審査し、学術論文のように専門家による査読は行われません。
ただし、特に博士学位論文では、学位請求論文の提出前に学位申請資格の取得を課している大学院・研究科もあります。査読とは異なるものの、論文の公表(=学位審査合格)までには専門家による複数の審査があり、厳格な審査が行われます。
なお、優れた学位論文の成果は、その後に内容を発展的に再構成し、査読付きの学術論文として公表される場合もあります。
学術論文の主な種類
一口に「学術論文」といっても、その目的や形式によっていくつかの種類に分けられます。ここでは代表的なものとして、以下の5つを紹介します。
概要 | |
原著論文 | 著者自身が行った新しい研究の成果を、背景・方法・結果・考察の構成で報告する論文。最も基本的な学術論文の形式であり、新規性や有用性が求められる |
レビュー論文 | 特定のテーマについて、既存の多数の論文の情報を網羅的に収集・整理し、評価・分析を行うことで研究の動向を俯瞰的にまとめた論文 |
学位論文 | 修士号や博士号などの学位を取得するために、学生が自らの研究成果を体系的にまとめた論文。通常は学内で保管されるが、優れた内容は発展的に再構成し査読付き論文として公表されることもある。また、博士学位論文は原則、提出大学の機関リポジトリで公開される |
レター | 速報性を重視し、ページ数の短い形式で研究成果を迅速に公表するための論文。他の研究者に先駆けて画期的な発見をいち早く公表したい場合などに用いられる |
会議録 | 学会やシンポジウムなどの学術会議で発表された研究内容をまとめた論文。最新の研究動向を知る手がかりになる |
学術論文の探し方

大学での学びが専門的になるにつれて、授業のレポート作成、卒業論文のテーマ探しなどで学術論文を探し読み込む機会増えてきます。自らの主張の根拠を示したり、自身の研究の新規性を確かめたりするためには、信頼性の高い先行研究を把握することが不可欠です。
しかし、いざ探そうとすると、膨大な論文の中から必要な論文をどう見つければよいのかわからないという方も多いでしょう。ここでは、基本的な学術論文の探し方を3つ紹介します。
- 大学図書館を利用する
- 論文検索サイトを利用する
- 教員や先輩に相談する
大学図書館を利用する
大学に所属している場合、まずは学内にある図書館を活用するのが基本です。館内では、多くの学術雑誌が研究分野ごとに分類されて所蔵されており、テーマに関連する雑誌を手に取って確認できます。
ただし、一つの図書館で所蔵している学術雑誌の数には限りがあり、必要とする論文が見つかるとは限りません。その場合は、次に紹介する論文検索サイトで論文を探しましょう。
論文検索サイトを利用する
論文検索サイトを活用すれば、パソコンやスマートフォンから、いつでもどこでも学術論文を検索できます。多くの検索サイトは無料で利用でき、研究活動に欠かせない存在です。
検索ボックスに研究テーマに関連するキーワードを入力すれば、該当する論文が一覧で表示されます。さらに著者名や出版年などの条件を組み合わせることで、検索精度を高めることも可能です。
なお、代表的な検索サイトについては、後述する「学術論文を読めるサイト」の章で詳しく紹介します。
教員や先輩に相談する
研究室の教員や先輩に相談することは、学術論文を探すうえで非常に有効な手段です。
同じ分野で研究を積み重ねてきた教員や先輩は、読んでおくべき基本文献や、注目されている最新の論文などに精通しています。たとえば「〇〇というテーマに関心があるのですが、最初に読むべき論文はありますか」と尋ねれば、自分では気づけない有益な論文を教えてもらえるでしょう。
また、論文そのものにとどまらず、研究の背景や流れ、注目すべき研究者の動向といった生きた情報が得られるのも、教員や先輩に相談する大きなメリットです。
学術論文を読めるサイト
前章では論文検索サイトの利便性に触れましたが、ここでは多くの研究者に利用されている代表的なサイトを4つ紹介します。それぞれに特徴や強みがあるため、目的や研究分野に応じて使い分けてください。いずれも基本的に無料で利用できるため、まずは気軽に試してみるとよいでしょう。
検索サイト | 概要 | 費用 |
Google Scholar | Googleが提供する学術情報特化の検索エンジン | 無料 |
CiNii Research | 国立情報学研究所(NII)が運営するデータベース | 無料 |
J-STAGE | 日本の科学技術振興機構(JST)が運営する電子ジャーナルプラットフォーム | 無料(一部有料論文あり) |
学術機関リポジトリデータベース | 全国の大学・研究機関が公開する論文を一括で検索できるサービス | 無料 |
Google Scholar
Google Scholar(グーグル・スカラー)は、Googleが提供する学術情報に特化した検索エンジンです。通常のWeb検索と同じ感覚で操作でき、分野を問わず幅広い論文や書籍を検索できます。
検索結果には、各論文がどれだけ引用されているかも表示されるため、影響力の大きさを把握する指標としても活用できます。
CiNii Articles
CiNii Research(サイニィ・リサーチ)は、国立情報学研究所(NII)が運営する日本の学術論文データベースです。国内の学協会が発行する論文や研究紀要などを幅広く収録しており、日本語の論文を探す際に非常に有力です。
J-STAGE
J-STAGE(ジェイ・ステージ)は、日本の科学技術振興機構(JST)が運営する電子ジャーナルプラットフォームです。2025年6月現在は、およそ585万件もの論文が公開されています。
日本国内の多くの学会が発行する学術雑誌の論文を公開しており、その多くは無料で閲覧できます。生物学・医学・工学・農学といった理系分野を中心に、人文科学や社会科学分野の論文も充実しています。日本の学会の動向を知る上で欠かせないサイトです。
学術機関リポジトリデータベース(IRCB)
学術機関リポジトリデータベース(IRDB)は、日本全国の大学・研究機関が電子的に保存・公開している機関リポジトリをまとめて検索できるサービスです。複数の機関に分散している論文を一括で調べられるため、必要な論文を効率よく見つけることができます。
他にも、AI技術を活用した学術論文の検索エンジンであるSemantic Scholar(セマンティック・スカラー)など複数のサイトがあります。サイトによって長所と短所があるため、検索目的に応じて使いこなせるとよいでしょう。
学術論文の効果的な読み方
目的の論文が見つかっても、専門的な内容をどう読み解けばよいか迷うことも少なくありません。学術論文を効率よく理解するには、読む順序や視点に工夫が必要です。
ここでは、研究に役立つ効果的な読み方を、以下の3つの段階に分けて紹介します。
- 問い・論証・答えを確認する
- 批判的思考で疑問点を探す
- 参考文献を確認する
1.問い・論証・答えを確認する
まずは論文全体の構成や流れを把握するために、「何を明らかにしようとしているのか(問い)」「どのような方法で検証しているのか(論証)」「最終的に何がわかったのか(答え)」の3点に注目して読み進めましょう。これらは主に以下の部分に記されています。
- 要旨(Abstract):論文全体の要約
- はじめに(Introduction):研究の背景と目的(問い)
- おわりに(Conclusion):研究結果のまとめと結論(答え)
まずはこれらのパートを重点的に読み、全体像を把握することが大切です。論証の詳細については、「方法(Method)」や「結果(Result)」の章に目を通すことでより深く理解できます。
2.批判的思考で疑問点を探す
学術論文は、ただ受け身で情報を取り込むのではなく、「この結論は本当に妥当か」という批判的思考を持つことが重要です。この視点を持つことで、論文の内容をより深く理解し、自身の研究に活かすヒントも得られます。
たとえば、以下のような問いを自分に投げかけながら読んでみるとよいでしょう。
- この研究にはどのような限界があるか
- 著者の解釈は妥当か?
- 自分の研究テーマに、この手法や結果をどう応用できるか
このように能動的に読み進めることで、理解が深まるだけでなく、新たな発見や着想につながることもあります。
3.参考文献を確認する
論文の末尾に記載されている参考文献の一覧は、さらに関連する情報を探すうえでとても有用です。
その論文がどのような先行研究に基づいているのかを把握できるだけでなく、掲載されている文献の中から自分の研究に役立つ論文が見つかる可能性も高くなります。気になる文献があれば、その出典をたどることで、研究分野や関連分野への理解をより一層深めることができます。
学術論文の執筆手順

学術論文は大学院に進学してから執筆するケースが多く、博士学位(博士号)の取得を目指す場合には、学術論文の執筆が必須といえます。学術論文は研究活動以外では執筆する機会のない文章であるため、初めて執筆する場合には「どのように学術論文を執筆すればよいのかわからない」と戸惑うこともあるでしょう。
ここでは、研究成果が学術論文として正式に認められるまでの一般的な流れを、以下の3つの段階に分けて解説します。
- 投稿先を決める
- 論文を執筆する
- 投稿して連絡(査読結果)を待つ
1.投稿先を決める
研究成果がまとまった段階で、まずどの学術雑誌に投稿するかを決める必要があります。各学術雑誌では、それぞれ専門分野や対象読者、審査基準、掲載の難易度が異なるため、自分の研究内容や成果のレベルに合った投稿先を選ぶことが重要です。指導教員と相談しながら進めるとよいでしょう。
2.論文を執筆する
投稿先が決まったら、その学術雑誌が定めている投稿規程に従って論文を執筆します。論文の構成、文字数、参考文献の記載方法など、細かな規定が多くあります。これらを遵守していない場合、審査に進む前に受理されない可能性もあるため、注意が必要です。
3.投稿して連絡を待つ
完成した論文は、学術雑誌ごとに定められた投稿方法に従って提出します。その後、編集者による確認を経て、査読プロセスに進むことになります。査読者による審査結果に応じて、「採択」「修正の上で再審査」「不採択」といった通知が届きます。修正を求められた場合は、指摘内容に丁寧に対応し、必要に応じて再投稿しましょう。
学術論文に関するよくある質問
最後に、学術論文に関して初心者の方が抱きやすい質問とその答えをまとめました。
Q.学術論文とは?
学術論文とは、研究によって得られた新たな知見(研究成果)を、定められた形式に沿って論理的に記述した文章のことです。学術的な価値を有するもので、他の研究者と知見を共有することが目的です。一般的に、専門家による厳格な審査(査読)が行われ、査読の結果、公表する価値があると判断された論文は、学術雑誌や学会誌などに掲載されます。
Q.学術論文はどのように探したらよいでしょう?
学術論文の探し方には、主に以下の3つの方法があります。
- 大学図書館が所蔵している学術雑誌を確認する
- オンラインの論文検索サイトを利用する
- 指導教員や研究室の先輩にその分野の重要論文を教えてもらう
これらを状況に応じて組み合わせることで、効率的に論文を探すことが可能です。
Q.学術論文の検索に使える主なサイトは?
代表的な検索サイトとして、Google Scholar、CiNii Research、J-STAGE、学術機関リポジトリデータベース(IRDB)などが挙げられます。いずれも基本的に無料で利用でき、論文の検索から閲覧まで対応しているものも多く、初心者にも扱いやすいです。
Q.学術論文はどのような手順で作成しますか?
学術論文は、「1.投稿先を決める」「2.投稿規程に沿って執筆する」「3.投稿して査読を受ける」という流れで作成・公開されます。提出後に修正依頼が入ることもあり、その際は指摘内容に丁寧に対応しましょう。
Q.学術論文を読むときは、どこから見るとよいでしょうか?
初めて論文を読む場合は、全てを最初から読むのではなく、まず「要旨」や「はじめに」「終わりに」など、研究の目的や結論が簡潔に書かれている部分から読むのがおすすめです。それにより、その論文が自分の研究に役立ちそうかを判断できます。詳細な方法や結果については、必要に応じて「方法」や「結果」の章で確認してください。
まとめ:学術論文を理解して研究の第一歩を踏み出そう

学術論文は、専門的な研究成果を論理的にまとめ、学問の発展に寄与する重要な情報源です。本記事では、学術論文の概要から、学位論文との違い、主な種類、効率的な探し方、論文検索サイト、効果的な読み方、そして執筆手順までを網羅的に解説しました。
始めは難しく感じるかもしれませんが、読み方の工夫や信頼できる検索手段を活用することで、学術論文を身近な存在にすることができるでしょう。
学術論文を読み、活用することは、研究者としての第一歩です。今後、自分が学術論文を作成する日に向けて、まずは他の研究者が執筆した論文を読み、ぜひ多くのことを吸収してください。
ぜひ本記事で紹介した内容を参考に、自分の研究に役立つ論文を見つけてみてください。一度読んで終わりではなく、批判的に考察し、そこから自分の問いや仮説を導き出す姿勢が、充実した研究活動につながるでしょう。
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