研究・教育

学際的とは?学際的研究の具体例や意義、研究の進め方などを解説

複雑な社会課題が顕在化している昨今、学際的研究の重要性が高まっています。学際的研究という言葉は聞いたことがあるものの、具体的にどのような研究のことなのか、どのように進めるのかわからないという方は多いでしょう。

本記事では、学際的とは何か、具体例や意義、学際的研究を進める方法などを解説します。学際的研究に関心がある方は、ぜひ参考にしてください。

学際的とは

学際的とは、研究や事業が複数の学問分野にまたがっていることです。そして、複数の学問分野を統合して横断的に進められる研究のことを学際的研究(Interdisciplinary Research)と呼びます。

学際的研究に厳密な定義はありません。しかし、一般的には複数の分野の専門家が1つの研究課題に共同で取り組むこと、あるいはある学問分野を別の学問分野に適用し、新たな知見を得ることを学際的研究と呼びます。

学際的研究とは本来の学問のあり方

学際的研究というと特別なものに見えますが、実は本来の学問のあり方と言えます。

1つの分野において研究を進めるうちに、関連分野についても「知りたい」「知識を深めたい」と感じることは多いでしょう。専門領域を深めれば深めていくほど、経済的な視点や技術的な観点など、専門領域外のことが求められていくはずです。

学際的研究では、複数の学問分野にまたがって研究を進めていきます。その過程では、専門分野に固執することなく、興味を持った分野にも柔軟に取り組めるのが魅力です。学際的研究を進めるということは、研究者自身の問いに誠実に向き合い、本質を突き詰めていくことにつながります。これこそが、本来の学問のあり方と言えるでしょう。

学際的研究の種類

学際的研究は、異分野連携と異分野融合の2つに分けられます。

異分野連携とは、複数の分野がそれぞれの分野が扱う範囲内において共通の目標を達成しようとすることです。それぞれの専門性を活かして共同で研究を進め、課題を解決しようとすること、と考えるとわかりやすいでしょう。

一方、異分野融合とは、それぞれの専門分野を超えて意見を出し合い、新たなテーマや研究手法を生み出して課題を解決しようとすることです。専門分野にとらわれることなく、共同で研究を進めます。

学際的研究と複合領域研究、技術の借用の違い

学際的研究と混同しやすいのが、複合領域研究と技術の借用です。

複合領域研究とは、学問横断的に研究を行うことです。例えば、地理学的な観点から考古学の研究に取り組むことは、複合領域研究に該当します。学際的研究では、研究により新たな研究分野の開拓や個々の研究分野への新たな知見・手法の発見につながりやすいとされる一方、複合領域研究ではつながりにくいとされるのが違いです。

また、技術の借用は、ある学問分野における知見や研究手法を他の学問分野に借用することを指します。学際的研究のように、複数の研究分野が協力関係にあるわけではありません。例えば、物理学で用いられる研究手法を用いて生物学の研究を進めることは、技術の借用に該当します。

学際的研究の具体例

学際的研究の具体例は以下の通りです。

  • 地球温暖化の抑制に関する研究
  • 歴史的な資料の解析に関する研究
  • AIによる翻訳に関する研究

地球温暖化の抑制に関する研究では、環境学や気象学、生態学のほかにも、経済学や政治学などさまざまな研究者が協力し、地球温暖化の解決に向けて取り組まなければなりません。

また、歴史的な資料の解析に関する研究では、考古学が持つ発掘に関する知見や、生物学が持つDNAの分析技術、歴史学や言語学が持つ古文書の解読・解析技術などが役立ちます。

AIによる翻訳に関する研究では、AIや機械学習に関する情報学的な技術だけではなく、自然な翻訳を実現するための言語学の知見が必要です。AI自体の運用、社会実装にあたっては、法学や倫理学の知見も求められます。

このように、1つの学問分野だけでは対応しきれないテーマに対しては、学際的なアプローチが必要です。

学際的研究が注目される背景

学際的研究が注目される背景としては、以下の2つが挙げられます。

  • 学際的研究でしか解決できない複雑化した社会課題の顕在化
  • 伝統的な学問分野の境界領域への注目

それぞれ解説します。

学際的研究でしか解決できない社会課題の顕在化

1点目は、学際的研究でしか解決できない複雑化した社会課題が顕在化していることです。

近年では、地球温暖化や資源の枯渇、生物多様性の減少といったさまざまな社会課題が顕在化しています。これらは複数の要因が絡み合って発生しており、単一の学問分野のみで解決を図るのは困難です。学問横断的にアプローチする必要があることから、学際的研究が注目されるようになりました。

グローバル化やボーダレス化が進む現代社会では、複合的な課題が今後ますます増えていくでしょう。

伝統的な学問分野の境界領域への注目

2点目は、伝統的な学問分野の境界領域にある学問に注目が集まっていることです。

伝統的な学問分野が成熟するにつれ、その境界に位置する学問が「社会課題の解決に貢献する学問なのではないか」と注目されています。

例えば、認知科学は脳科学や神経科学、情報科学、言語学といった分野の境界領域に位置する学問です。AI技術が注目される昨今、人間に近いAIを追求するためのヒントとして、認知科学が注目を集めています。

境界領域に位置する学問を研究するうえでは、個別の学問分野ごとに取り組むのではなく、複数の学問分野の知見を結集させることが必要です。そのため、学際的研究が重要視されています。

学際的研究を推進する意義

ここでは、学際的研究を推進する意義について見ていきましょう。

  • 複雑な課題やテーマにアプローチできる
  • 新たな学問や技術の創出につながる

複雑な課題やテーマにアプローチできる

学際的研究は、社会が抱える複雑な課題やテーマにアプローチできるという点で意義があります。

前述の通り、地球温暖化という課題を解決するためには、単一の学問のみでは不十分です。複数の学問分野が協力して知識や技術を共有することで、地球温暖化を解決する糸口が見つかる可能性があります。

複雑な課題やテーマにアプローチするためには、学際的研究が必要です。

新たな学問や技術の創出につながる

学際的研究は、新たな学問や技術の創出につながる可能性も秘めています。

学際的研究では、異なる学問分野間で知識や技術を共有し、学問横断的に研究を進めます。これまでにない観点からテーマに向き合えるようになることで、新たな学問が生まれたり、新たな技術の創出につながったりするでしょう。

学際的研究に取り組むやりがい

以下では、学際的研究に取り組むやりがいを2つ紹介します。

  • 研究を多くの人に知ってもらいやすくなる
  • 単一の分野の研究では思いつかないような問題点・解決策が見えてくる

研究を多くの人に知ってもらいやすくなる

1つ目は、研究を多くの人に知ってもらいやすくなることです。

学際的研究では、異なる学問分野感で横断的に研究を進めます。そのため、関わる分野の研究者や研究機関・企業などに興味を持ってもらい、より多くの人に研究を知ってもらえる可能性が広がります。

自分の研究が社会に浸透し、世の中をよりよくすることにつながるのは、研究者として大きなやりがいにつながるでしょう。

単一の分野の研究では思いつかないような問題点・解決策が見えてくる

2つ目は、単一の分野の研究では思いつかないような問題点・解決策が見えてくることです。

学際的研究では異なる分野の知見を効果的に組み合わせられるため、優れたイノベーションによって困難な課題を解決できる可能性が高いです。加えて、複数の視点から物事を捉えることにより、より有意義な議論やよりよい結論を導くことにつながるでしょう。

その結果、研究を成功に導き、大きな達成感を得られる可能性が期待できます。

学際的研究を進める方法

学際的研究を進めるためには、共に研究を進める相手を見つけてチームを組む必要があります。同時に、他分野の知識をインプットすることも必要です。

大学院生として学際的なテーマの研究に取り組む際には、まずは自身の専門分野以外の知識や手法を学びましょう。そして、指導教員以外にも関連分野の教員と積極的にコミュニケーションを取り、研究の視野を広げて深めていくことが大切です。

ここでは、学際的研究を進める方法を解説します。

研究相手を見つける

まずは、研究相手を見つけて共同研究を申し出ましょう。

相手を見つける方法としては、以下が挙げられます。

  • 所属する研究室の教員や先輩から紹介してもらう
  • 他分野の学会に参加する
  • 他分野の論文を読み、著者に直接連絡する

チームを組んでプロジェクトリーダーを決める

相手が見つかったらチームを組み、プロジェクトリーダーを決めましょう。

学際的研究では、協力関係をいかに構築するかが重要です。そのためには、それぞれの意見を集約したり、研究スケジュールを管理したりするプロジェクトリーダーの存在が欠かせません。プロジェクトリーダーが中心となり、論点の整理や研究の方向性のすり合わせ、計画の作成、進捗管理などを行います。

他分野の知識・手法をインプットする

学際的研究では、自身の専門性を発揮することに加え、他分野の知識・手法を吸収することも必要です。その分野の専門家に話を聞くことに加え、関連する論文や書籍にも積極的に目を通し、知識・手法をインプットしましょう。

このとき、他分野の知識の吸収ばかりに偏らないよう注意が必要です。学際的研究では、自身の専門分野と他分野の知見を掛け合わせて研究を進める必要があるためです。自身の専門性を主軸として活かしつつ、他分野の知識や技術を取り入れられるよう、バランスを取ることを意識しましょう。

学際的研究を成功させるポイント

学際的研究を成功させるためには、丁寧なコミュニケーションがポイントです。

学際的研究では、それぞれ異なる分野の研究者が共同して研究を行います。専門用語が通じない、研究手法が異なるなどの理由から、研究の前提や認識がずれてしまう可能性も否定できません。コミュニケーションに失敗し、研究のスケジュールが大幅に遅れてしまうこともあるでしょう。

学際的研究を成功させるためには、自分の専門分野に関する知識を「当然相手も知っているだろう」と考えてはなりません。相手の学問を尊重しながら、丁寧にコミュニケーションをとることが大切です。

まとめ:学際的研究で複雑なテーマにアプローチしよう

学際的研究は、複数の学問分野にまたがって進められる研究のことです。単一の分野のみでは解決できない複雑な社会課題にアプローチできる、新たな学問や技術の創出につながるといったメリットがあります。学際的研究に取り組む際は、まずは研究相手を見つけ、研究プロジェクトが円滑に進むようプロジェクトマネジメントやコミュニケーションを重視しましょう。

なお、博士前期課程(修士課程)の段階では、自身の分野以外の研究者等と共同で研究を進めるということは難しかったり、機会が得られなかったりする可能性が高いかもしれません。そうした場合には、所属している大学の中で必要な知識や技術を指導してもらえる教員を探すとよいでしょう。入学前であれば、学際的に研究を進めることができる研究・指導体制が整っている大学院への進学を検討するとよいでしょう。

自身が希望する研究テーマへのアプローチ方法に迷ったら、学際的研究に取り組んでみてはいかがでしょうか。

中央大学大学院には学際的研究に取り組める環境がある

中央大学大学院では、学際的研究(学際的テーマ)に取り組める環境を用意しています。

例えば総合政策研究科では、学際的研究を行うことを目的とした演習を開講しています。研究分野が異なる学生同士が集まり、互いに刺激を受けながら共同演習を進め、幅広い思考力を養えるのが魅力です。詳しくは以下をご覧ください。

参考:総合政策研究科「専門分野横断の共同演習」

13専攻を有する文学研究科では、専攻の垣根を超えた専攻横断型の授業科目を多く設置しています。自身の専門領域と隣接領域や関連分野の学びを組み合わせることで、広い視野に基づく研究を遂行できるでしょう。

その他にも、中央大学大学院ではオープンドメイン制度を導入しています。他研究科の授業にもアクセスしやすいようになっており、自身の研究の関連領域の知識の習得もできます。

その他、各研究科の特徴やカリキュラムについて知りたい方は、以下よりお問い合わせください。

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