心理学に興味のある方のなかには、臨床心理士を目指したいと考えている方もいるでしょう。臨床心理士の試験を受けるためには、指定の大学院を修了するなど、満たしておくべき条件があります。
受験しようと思ったら資格がなかったという事態を避けるために、あらかじめ受験資格について把握しておきましょう。
本記事では、臨床心理士の受験資格についてわかりやすく解説します。出題形式・範囲、資格審査スケジュールなどの試験概要も紹介しているため、臨床心理士に興味のある方はぜひ参考にしてください。
臨床心理士とは
臨床心理士とは、臨床心理学に基づく知識や技術を活かし、心理的な問題を抱える人々を支援する専門家のことです。公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会の実施する試験に合格し、認定を受けることにより、臨床心理士として活動できます。
臨床心理士は、以下の4つの専門業務が求められています。
- 臨床心理査定
- 臨床心理面接
- 臨床心理的地域援助
- 調査・研究
以下の記事では、臨床心理士についてより詳しく解説しています。混同されやすい公認心理師との違いも説明しているため、興味がある方はぜひあわせてご覧ください。
臨床心理士と公認心理師の4つの違いを解説|選択肢となる研究科も紹介
臨床心理士の受験資格
臨床心理士の認定試験を受けるには、以下7つのいずれかの条件を満たし、これらに関する所定の必要証明書類を提出することが求められます。
- 第1種指定大学院を修了し、受験資格の条件を満たしている(修了後の心理臨床経験は不要)
- 第1種指定大学院を修了し、修了後1年以上の心理臨床経験を含む受験資格の条件を満たしている
- 第2種指定大学院を修了し、修了後1年以上の心理臨床経験を含む受験資格の条件を満たしている
- 第2種指定大学院を修了し、修了後2年以上の心理臨床経験を含む受験資格の条件を満たしている
- 大学院で臨床心理学、またはそれに準ずる心理臨床に関する分野を専攻する専門職学位課程を修了した
- 外国で上記1または3と同等以上の教育を受け、日本国内で2年以上の心理臨床経験がある
- 医師免許を取得後、2年以上の心理臨床経験がある
基本的に大学院への進学が必要
基本的に、臨床心理士を目指すには第1種指定大学院、第2種指定大学院、専門職大学院を修了しておく必要があります。しかし、外国で一定以上の教育を受けて、国内で2年以上の心理臨床経験がある場合や、医師免許を取得したあとに2年以上の心理臨床経験がある場合には、受験することが可能です。
なお、ここでいう「心理臨床経験」は、教育相談機関、病院などの医療施設、心理相談機関などで心理臨床に関する従業者として勤務した実務経験を指します。給料が発生していることを原則としており、ボランティアや研修員は経験として認められません。
参考:公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会| 臨床心理士資格認定の実施
臨床心理士を目指せる学校(大学院)
前述の通り、臨床心理士を目指せる学校には、第1種指定大学院、第2種指定大学院、専門職大学院の3種類あります。
第1種指定大学院、第2種指定大学院は、どちらも一般的にイメージされる大学院です。第1種指定大学院を修了すると、心理臨床経験なしで臨床心理士試験の受験資格を得られます。一方、第2種指定大学院を修了した場合は、1年以上の心理臨床経験が必要です。2023年年8月時点における大学院数は、第1種で148校、第2種で8校であり、第1種指定大学院のほうが多くなっています。
専門職大学院は、臨床心理士の養成を目的とした大学院のことです。第1種指定大学院や第2種指定大学院と比べて、より実践的な活動に重きを置いており、取得しなければならない単位数も多くなっています。専門職大学院を修了したあとは、心理臨床経験なしで臨床心理士試験の受験資格を得られます。2023年8月時点における大学院数は、5校と少ないです。
参考:臨床心理士受験資格に関する指定大学院・専門職大学院一覧
以下の記事では、第1種指定大学院、第2種指定大学院、専門職大学院についてより詳しく解説しています。どの学校に進学するか決めかねている方は、ぜひ参考にしてください。
臨床心理士になるには大学院に行くべきか?進学すべき大学院も解説
臨床心理士の試験概要
臨床心理士の資格を取得するためには、一次試験と二次試験に合格する必要があります。一次試験は筆記試験、二次試験は面接試験となっており、一次試験の成績に基づいて二次試験の受験資格が判定されます。
出題形式
一次試験は、「多肢選択方式試験」と「論文記述試験」の2種類で構成されます。多肢選択方式試験で一定の点数を超えると、二次試験の面接に進めます。二次試験の受験資格通知には、論文記述試験の成績は含まれていません。資格審査の最終的な合否は、これら3種類の試験方式の結果を総合的に判断して決定されます。
以下に、一次試験と二次試験の概要や試験時間についてまとめました。
構成 | 概要 | 試験時間 |
一次試験
(多肢選択方式試験) |
マークシート方式で100題に回答する | 2時間30分 |
一次試験
(論文記述試験) |
心理臨床に関する1題のテーマについて、1,001字以上1,200字以内の論文を作成する | 1時間30分 |
二次試験:面接 | 2名の面接委員と面接する | – |
出題範囲
一次試験では、臨床心理士として最低限理解しておくべき専門的な基礎知識を中心に出題されます。心理学の基礎的な問題だけでなく、臨床心理士の基本業務である臨床心理査定、臨床心理面接、臨床心理的地域援助、研究調査などに関する基礎的・基本的な専門知識も問われます。さらに、臨床心理士の倫理・法律等の基礎知識や、専門家として求められる基本的な姿勢・態度に関する問題も出題範囲内です。
二次試験では、専門知識や技術の習得度を確認するだけでなく、臨床心理士としての基本的な姿勢や態度、専門家として最低限身につけておくべき人間関係能力が問われます。
資格審査スケジュール
2024年度の試験は、以下のスケジュールで実施されます。毎年実施日が異なるため、審査に申し込む際は最新のスケジュールを確認してください。
【2024年度の資格審査スケジュール】
日程 | |
資格審査に必要な申請書類の請求期間 | 6月24日~8月9日 |
受験申込の受付期間 | 6月25日~8月31日(当日消印有効) |
一次試験 | 10月19日 |
二次試験 | 11月16日、17日、18日 |
合格発表 | 12月下旬予定 |
参考:公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会|資格審査スケジュール
臨床心理士の資格取得の難易度
近年の臨床心理士の試験合格率は、65%程度です。受験者の半数以上が合格しており、試験の難易度が非常に高いわけではありません。しかし、専門性が高い試験であるため、油断せず、事前にしっかりと準備しておきましょう。
また、指定された大学院を修了するためには、大学院生としては非常に多くの単位を取得し、所定の要件を満たす実習に参加する必要があります。試験の合格率だけでなく、受験資格を得るまでの道のりについても、理解しておくことが求められます。
直近5年間の受験者数や合格者数は、以下の通りです。
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
2019年度 | 2,133人 | 1,337人 | 62.7% |
2020年度 | 1,789人 | 1,148人 | 64.2% |
2021年度 | 1,804人 | 1,179人 | 65.4% |
2022年度 | 1,810人 | 1,173人 | 64.8% |
2023年度 | 1,705人 | 1,134人 | 66.5% |
参考:公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会|「臨床心理士」資格取得者の推移
臨床心理士の資格に関する注意点
ここでは、臨床心理士の資格に関する注意点について説明します。
- 合格後は登録手続きが必要
- 5年ごとに更新手続きを行う
合格後は登録手続きが必要
資格審査に合格しただけで、すぐに臨床心理士として認められるわけではありません。合格通知を受け取ったあと、所定の期日までに資格認定証書の交付手続きを完了する必要があります。手続きが完了すると、日本臨床心理士資格認定協会から臨床心理士の資格認定証書と資格登録証明書が発行され、臨床心理士として認められます。
なお、臨床心理士の資格認定を受けると、資格取得者の氏名が認定協会の発行する「日本臨床心理士名簿一覧」に登録されます。この名簿は大学や研究所、関係官庁、施設などの関係機関に送付され、社会的に公開されるものです。
5年ごとに更新手続きを行う
臨床心理士として名簿に登録された人は、社会的な責任を負う高度専門職業人であり、常に専門資質の維持向上に努めなければなりません。臨床心理士は生涯資格ではなく、5年ごとの資格更新が義務付けられています。
資格を更新するためには、日本臨床心理士資格認定協会が主催する研修会への参加や、研究論文の公刊などによってポイント集める必要があります。資格の発行日から5年以内に計15ポイント以上取得できれば、資格が更新されます。
以下は、獲得できるポイントの一例です。
獲得できるポイント | |
臨床心理士研修会に講師・発表者として参加する | 4ポイント |
臨床心理士研修会に受講者として参加する | 2ポイント |
研究誌、機関誌への研究論文の発表(原著) | 10ポイント |
研究誌、機関誌への研究論文の発表(小論文) | 6ポイント |
参考:公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会|臨床心理士資格更新制度
まとめ:自分に合った大学院を選んで合格に向け準備しよう
臨床心理士の試験を受けるためには、第1種指定大学院、第2種指定大学院、専門職大学院のいずれかを修了し、所定の条件を満たす必要があります。
近年の合格率は65%程度で、試験の難易度が非常に高いわけではありませんが、臨床心理士は社会的責任を負う専門職であり、常に専門性の向上に努めることが求められます。資格の発行後も5年ごとに資格更新のための手続きを行わなければなりません。
臨床心理士を目指す方は、自分に合った進学先を選び、十分な準備を行ったうえで試験に臨むことが大切です。修了する大学院によっては、修了後に心理臨床経験を受験条件に設定されることがあるため、あらかじめ受験資格について確認しておきましょう。
中央大学大学院に興味がある方は、以下よりお問い合わせください。