進路・資格

臨床心理士と公認心理師の4つの違いを解説|選択肢となる研究科も紹介

心理学に興味がある方が大学・大学院で取得を目指す資格には、臨床心理士・公認心理師があります。ともにカウンセラーとなる際に役に立つ資格ですが、この2つの違いはなかなかわかりにくいのではないでしょうか。

今回はこれら2つの資格の概要と違いを説明した上で、取得するために進学を検討できる研究科を解説します。

臨床心理士とは

臨床心理士は、心理学の専門知識と技術を駆使し、こころの問題を抱える人を支援する専門家です。公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会の試験に合格し、認定を受けることで資格を取得できます。1988年に資格認定制度が開始されて以来、2023年4月時点で40,749名が臨床心理士として認定されています。

臨床心理士の職務内容には、知的能力やパーソナリティの心理検査、相談者との面接、地域や学校でのカウンセリング、さらには心理臨床に関する研究や調査が含まれます。単にこころの問題を解決するだけでなく、個々の特性やニーズに対応し、彼らの自己実現に貢献することが重要です。

公認心理師とは

公認心理師は心理学の専門知識と技術を活用し、心理的な支援を必要とする人々に対して指導、助言、援助を行う専門職です。2017年に施行された公認心理師法に基づく日本初の心理系国家資格です。2023年3月末時点で69,875人が登録されているところに、その需要の高さが示されています。

公認心理師の業務は、心理状態の観察や分析、心理に関する相談や助言、指導など多岐にわたります。勤務先には病院や児童相談所、児童福祉施設、障がい者の入所施設などが挙げられます。不登校や虐待、障がいに関する相談、高齢者の心理支援など、さまざまな支援を行います。

医療領域でも精神科や小児科などで公認心理師の役割が拡大しています。特に医師と連携して心理的な支援をより強化することが求められているため、その重要性は今後さらに増すでしょう。これらの機関では、依存症やひきこもりの相談、心の健康に関するアドバイスを実施します。

臨床心理士と公認心理師の違い

臨床心理士と公認心理師の違いを説明します。

  • 資格の種類
  • 受験資格
  • 医師との連携の責務
  • 専門分野

資格の種類

臨床心理士は「日本臨床心理士資格認定協会」により用意された民間資格であり、5年に一度の更新が必要になります。

一方、公認心理師は国家資格であり、一度取得すると更新する必要はありません。

受験資格

公認心理師・臨床心理士の試験にはそれぞれ異なる受験資格が定められています。

公認心理師になるには、指定の科目を置く大学を卒業した後に、特定の機関で2年間の実務経験を積むか、指定の科目を持つ大学院に入学・修了する必要があります。必ずしも大学院に行く必要はありませんが、大学院で学ぶことで実務に活かせる専門知識を身につけられるでしょう。

対して臨床心理士は臨床心理士養成に関する指定大学院、もしくは専門職大学院を修了することが必要条件です。

医師との連携の責務

公認心理師法第四十二条により、公認心理師は業務において他の業種と連携することが強く求められています。

1 公認心理師は、その業務を行うに当たっては、その担当する者に対し、保健医療、福祉、教育等が密接な連携の下で総合的かつ適切に提供されるよう、これらを提供する者その他の関係者等との連携を保たなければならない。
2 公認心理師は、その業務を行うに当たって心理に関する支援を要する者に当該支援に係る主治の医師があるときは、その指示を受けなければならない。

引用:e-Gov法令検索「公認心理師法(平成二十七年法律第六十八号)

特に相談者の主治医とコミュニケーションを取り、心理的な支援を行うことが求められます。相談者をより多角的に支援することが重要視されているためです。

一方、臨床心理士は「人間のこころの問題にアプローチすること」が目的であり、医療や教育の関係者との連携は義務付けられてはいません。例えば、心理臨床実践に関する研究・調査のような形で社会貢献する臨床心理士も存在します。

専門分野

臨床心理士は「日本臨床心理士資格認定協会」により、「臨床心理学にもとづく知識や技術を用いて、人間の“こころ”の問題にアプローチする“心の専門家”」と定義づけられているため、習得が義務付けられているのは臨床心理学に限定されます。

臨床心理学は「心理的な問題の解決や適応のための、助言・相談や診断・治療・研究」を専門とする心理学の一分野です。心理学には健康の増進と維持、疾病の予防と治療を専門とする健康心理学など、他にもさまざまな分野が存在しますが、臨床心理士は基本的にはこれらの分野の知識は求められません。

一方、公認心理師は臨床心理学を含む幅広い分野の専門知識が求められます。自らが携わる相談者を多角的に支援するためです。

臨床心理士・公認心理師になるために検討できる大学院の研究科

臨床心理士・公認心理師になるために進学を検討できる研究科を説明します。

どちらも資格取得に向けた要件があるため、心理学を専攻できる研究科ならどこでもよいというわけではありません。大学院進学を考えている場合は要件をよく確認して進学先を検討しましょう。

臨床心理士になるために検討できる研究科

臨床心理士になるには臨床心理士指定大学院への進学が必要です。臨床心理士指定大学院は1種と2種、専門職大学院に分かれます。1種と専門職大学院は修了後すぐに試験を受けられるのに対し、2種は修了後、実務経験を1年以上積むことで試験を受けられるという違いがあります。

専門職大学院は「高度な専門知識や能力を有する高度専門職業人の育成」を目的とした大学院です。つまり、学術研究よりも実務で使える専門スキルに焦点を当てた大学院です。現場で活かせるスキルを優先したい場合は選択肢の1つになりますが、臨床心理学の深い知識を身につけたい場合は、1種や2種の大学院のほうが適しているでしょう。

公認心理師になるために検討できる研究科

公認心理師になるには公認心理師養成プログラムを用意している大学院に進学するとよいでしょう。公認心理師の受験資格が得られるのはもちろん、臨床心理学・認知心理学・教育心理学など公認心理師の業務に大きく関わる学問を学べます。

また、臨床心理学指定大学院の一部は、公認心理師になるために必要な科目を用意しています。臨床心理士と公認心理師の両方の資格を取得できるので、どちらも興味がある場合は各大学院のカリキュラムや設置科目まで調べたうえで進学を検討するとよいでしょう。

ただ、公認心理師を目指す場合は大学院だけでなく、大学(学部)の選択も重要です。公認心理師になるためには、文部科学省が指定する大学(学部)の25科目の取得と80時間以上の実習の実施を求められるためです。要件を満たす学部と大学院の両方を卒業・修了する必要があり、どちらか一方しか要件を満たしていないという状況にならないよう注意しましょう。

まとめ:臨床心理士・公認心理師のどちらも大学院への進学を検討しよう

ここまで臨床心理士・公認心理師の違いとなるためにおすすめの大学院を解説しました。臨床心理士と公認心理師は似ている点も多い資格ですが、その理念について「人間の“こころ”の問題にアプローチする」点と「国民の心の健康の保持増進に寄与する」点で、大きな違いがあります。自分がどちらに興味があるかを考えて、最適な進路を選びましょう。

臨床心理士と公認心理師は、どちらも心理学分野における専門職です。公認心理師については資格取得にあたって大学院修了が必須ではありませんが、大学院では心理学の深い専門知識や論理的思考力を身につけることができます。心理学分野の専門職を目指している場合は大学院に進学することも視野に入れましょう。