研究・教育

質的研究とは?量的研究との違いや研究分野・魅力について解説

質的研究は、ケーススタディやインタビューなどを通じて、人々の感情や経験、価値観など、数値化しにくい情報を収集・分析する研究手法です。現象を多面的に捉えられるなど量的研究にはない魅力があり、興味を持っている方も多いでしょう。

本記事では、質的研究の概要や量的研究との違いについて詳しく解説します。質的研究の用いられる分野や魅力についても紹介するため、質的研究に興味のある方はぜひ参考にしてください。

質的研究とは

質的研究とは、人々の感情や経験、価値観など、数値化が難しい情報を収集・分析する研究手法です。質的研究を行うことにより、社会現象の背景にある複雑な人間の心理や行動パターンなどを深く理解できます。これにより、量的研究だけでは見えてこない気づきを得られるようになります。

例として、新しい学習指導法の効果を調べる場合について考えてみましょう。テスト結果を分析して効果を測るのが量的研究ですが、質的研究では、生徒がその指導法をどのように受け入れ、学習過程でどのような認識や感情が生まれたのかを探ります。

面談や授業の観察を通じて、生徒が理解を深めた瞬間や学習の中で直面した困難を詳しく分析することにより、新たな指導法の効果を多面的に理解できます。

質的研究と量的研究の違い

量的研究は、数値化されたデータを統計的に分析し、変数間の関係性や因果関係を明らかにする研究手法です。質的研究との大きな違いは、データ収集や分析の際に、研究対象を数量的なデータとして扱うかどうかという点にあります。

その他、質的研究と量的研究の違いをまとめると、以下の通りです。

質的研究 量的研究
データの種類 非数値的 数値的
データの収集方法 インタビュー、文書分析など 調査、実験など
研究の目標 「なぜ」「どのように」を明らかにする 「どれほど」を明らかにする
サンプルサイズ 小さい 大きい

質的研究と量的研究は研究目標が異なるため、どちらが優れているというわけではありません。研究の目的に応じて、適切な研究手法やデータを選択することが重要です。

質的研究が用いられる研究分野

質的研究は、人間の行動や心理、社会現象などを深く理解するために、様々な研究分野で用いられています。ここでは、臨床心理学と社会学、看護学を例に質的研究の特徴について説明していきます。

臨床心理学

臨床心理学は、心に問題を抱える人々に対して、その問題の理解と解決を目指す学問分野です。質的研究では、対象者とのインタビューや観察を通じて、その人の感情や価値観などを探求します。これにより、対象者の問題の背景にある心理的メカニズムや社会的文脈を理解し、効果的な支援方法を見出すことが可能となります。

社会学

社会学は、社会現象や人間関係、社会構造などを研究する学問分野です。質的研究では、フィールドワークやインタビューなどを通じて、人々の日常生活や社会的相互作用、文化的背景などを探求します。これにより、社会問題の原因やマイノリティ問題の現状、社会変動のメカニズムなどを深く理解できます。

看護学

看護学は、患者の健康問題を理解し、その健康問題の予防や回復を支援する学問分野です。質的研究では、対象となる患者に個別の看護計画を立てて実践し、行った看護に対して振り返りを行います。これにより、看護師や看護学生の看護技術の向上や、新たな気づきを得ることなどにつながります。

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質的研究の手法

質的研究では、研究目的や対象に応じて、さまざまな手法が用いられています。ここでは、代表的な質的研究の手法であるケーススタディと、インタビュー、グラウンデッド・セオリー・アプローチ、フィールドワークについて説明します。

ケーススタディ

ケーススタディは、単一または少数の事例を詳細に調査する質的研究の手法です。その事例の特徴や背景、プロセスなどを明らかにすることにより、他の類似した事例にも適用できる予測や仮説を導き出せます。

例えば、医療分野において、特定の患者の症例を詳しく調査することにより、同様の症状に悩む患者への効果的な治療法を見出せることがあります。

インタビュー

インタビューは、研究対象者に直接質問を行い、その回答を通じて、対象者の経験や意見、感情などを収集する手法です。あらかじめ日時を提案してアポイントを取り、対象者の合意を得たうえで行われます。

一口にインタビューと言っても、以下のような種類があります。研究の目的や必要な情報に応じて、適切なインタビューの手法を選択することが重要です。

インタビューの種類 概要
個人インタビュー 研究者と対象者が1対1で行う
グループインタビュー 複数の対象者を一度に集めて実施する
構造化インタビュー 事前に用意した質問を、すべての対象者に同じ順序で尋ねる
半構造化インタビュー 事前に用意した質問を対象者に順に質問しつつ、回答内容に応じて質問を追加する
非構造化インタビュー 事前に用意した質問を基本としつつ、対象者の回答に応じて柔軟に質問を追加・変更する

グラウンデッド・セオリー・アプローチ

グラウンデッド・セオリー・アプローチは、調査で得られたデータを文章化し、その中でも特徴的な単語や文章にラベルを付けていく手法です。ラベルを付ける過程で、データの中から概念を抽出していきます。

次に、似たコード同士をまとめて、より上位の概念となるカテゴリーを作り出します。そして、生成されたカテゴリー同士の関連性を分析し、それらを統合することにより、データに根ざした理論を構築します。

このプロセスにより、研究対象となる現象の背後にある因果関係を明らかにすることが可能です。

フィールドワーク

フィールドワークは、研究者が実際の現場に赴き、人々の日常生活や社会的相互作用を直接観察する手法です。現地調査とも呼ばれており、幅広い分野で広く用いられています。

研究者は、現地の人々と交流し、その生活や文化、価値観などを肌で感じられるため、これまで気づかなかった課題を発見できる可能性のある点が特徴です。なお、フィールドワークには、アンケート調査や資料収集も含まれます。

質的研究の魅力・メリット

質的研究の大きな魅力・メリットとして、以下の2つが挙げられます。

  • 現象を多面的に捉えられる
  • 現象をより深く理解できる

質的研究の大きなメリットは、数値化の難しい人間の主観的な経験や感情、価値観などを深く理解できることです。インタビューや観察、文書分析など、さまざまな手法を用いてデータを収集します。そのため、数値だけでは捉えられない、現象の多面的な理解が可能となります。

また、質的研究では、研究者が対象者と直接やり取りを行うことが多いです。インタビューなどを通じて、対象者の経験や考えを深く掘り下げられるため、対象者の背景にある文脈などを探求し、現象をより深く理解できます。

質的研究のデメリット

質的研究には、デメリットも存在します。

  • データの収集に多くの時間と労力を要する
  • パターンを掴みにくい

質的研究では研究者自らがデータを収集する必要があり、多くの時間と労力がかかります。研究の特性上、多くのデータを収集することは困難であり、成果につながらない可能性もあります。

また、記述的な質的データからパターンを見つける必要があり、量的データを分析する場合よりもパターンを掴みにくい点もデメリットです。分析結果に研究者の主観が入り込んだり、研究者の質問の仕方によって回答結果が左右されたりすることもあります。

大学院なら質的研究を本格的に学べる

質的研究を本格的に学ぶには、大学院への進学がおすすめです。大学院では、質的研究の理論的基盤や方法論について、体系的に学べます。講義や演習を通じて、質的データの収集や分析の技法など、研究に必要な知識やスキルが身につきます。

また、実際に質的研究に取り組む機会が豊富にある点も、大学院進学の魅力です。修士論文や博士論文の作成を通じて、研究の計画立案から実施、結果のまとめに至るまでの一連のプロセスを実践的に学べます。

学位論文の他にも、学内の機関紙や学会誌への投稿論文の執筆、共同研究の中で、質的研究に取り組む機会は多くあります。さらに、大学院は指導教員や先輩からフィードバックをもらいやすい環境であるため、そのフィードバックを研究に反映させることにより、研究の質も高めていけるでしょう。

大学院への進学が向いているケース

大学院への進学が向いているケースは、以下の通りです。

  • 特定の分野の専門性を追求したい場合
  • 将来研究職や専門職に就きたい場合

大学院では学部よりも高度で専門的な教育を受けられるため、自分の興味のある分野について学びを深めることができます。また、研究職や専門職に就くには、修士号や博士号といった高度な学位が必要とされることが多いため、これらの職に就きたい人にとって大学院進学は有効な選択肢となります。

ただし、就職活動を先延ばしにしたい場合や、研究が好きではない場合には、大学院への進学は向いていません。研究自体に興味がない人は、研究活動が主となる大学院での生活に馴染めない可能性が高いため、就職や資格試験の準備など他の選択肢を検討するのがおすすめです。

また、大学院への進学にはメリット・デメリットがあります。以下の記事では、大学院に進学するメリット・デメリットについて詳しく説明しています。大学院への進学を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

大学院に進学するメリット・デメリット|大学院進学に向いている人の特徴を解説

まとめ:質的研究に興味があるなら大学院への進学がおすすめ

質的研究は、人間の主観的な経験や感情、価値観といった、数値化の難しい情報を深く理解するための研究手法です。

具体的な事例を重視するこの手法は、臨床心理学、社会学など、さまざまな分野で活用されており、新たな洞察や仮説の生成に役立っています。質的研究には、現象を多面的に捉え、より深く理解するという、量的研究にはない魅力があります。

質的研究という手法を用いて学び・研究を深めたい場合は、大学院への進学がおすすめです。大学院では、質的研究の理論的基盤や方法論を体系的に学ぶだけでなく、実際の研究プロジェクトで質的研究を行う機会も得られます。また、指導教員や先輩からのフィードバックを通じて、質の高い研究を進められるでしょう。

質的研究が盛んに行われている分野としては、臨床心理学や社会学が挙げられます。質的研究に興味がある場合は、これらの分野を専門としていて、自身も質的研究を主な研究手法としている教員がいる大学院を選ぶとよいでしょう。

希望の指導教員を選ぶ際には、研究分野だけでなく、進学後に用いたいと考えている研究手法の指導ができるかどうかも重要なポイントとなります。

なお、中央大学大学院には、臨床心理学や社会学を専攻できる研究科があり、どちらの分野にも質的研究を指導できる教員ががいます。興味のある方は、以下よりお問い合わせください。

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