大学院への進学を検討している方は、学部学生のうちから大学院での研究テーマを考えることが望ましいです。大学院入試で提出する研究計画書には、入学後の研究テーマに関する記載が求められるためです。
また、大学院や研究室を選ぶ際も、自身の研究テーマが大きな判断基準となります。しかし、研究テーマを決めるのは難しく、テーマ決めに苦戦している方もいるでしょう。
そこで今回は、研究テーマに必要な要素やテーマの決め方、テーマが思いつかない時の対処法などを解説します。
研究テーマに必要な要素
研究を成り立たせるためには、研究テーマに以下の要素が必要です。
- 新規性
- 有用性
- 検証可能性
それぞれの要素について解説します。
新規性
新規性とは、これまでの先行研究にはない新しい要素、つまりオリジナリティがあるかということです。
すでに研究されているテーマをもう一度研究しても、それは研究成果とは言えません。テーマを決める際は、先行研究を十分に調査し、新規性があるかを必ずチェックしましょう。
新規性といっても、完全に新しいテーマを選ばなければならないというわけではありません。例えば、先行研究と同じ研究方法を採用し、対象のみを変える、ということも可能です。この場合、その研究方法がほかの対象にも応用できるかどうかがわかるため、新規性があると判断されます。
新規性を持たせるためには、先行研究をベースに考え、そこにオリジナリティを加えましょう。また、修士課程(博士前期課程)と博士課程(博士後期課程)で求められる新規性の水準は異なるため、修士課程へ入学する段階では、そのレベルで可能な水準の範囲で検討する必要があります。
新規性のある研究テーマを見つけるためのポイントについては、記事後半で紹介します。
有用性
有用性とは、その研究が社会的に何らかの役に立つかどうか、ということです。研究することで明らかになることの意義とも言えます。
興味がある研究テーマであっても、研究内容やその結果が社会的に意義のないものと判断されてしまうと、研究として評価を得るのが難しい場合があります。
研究テーマを選ぶ際は、その研究はどのような社会課題にアプローチするものなのか、研究成果はどのように活用できるのかなどを明らかにすることが大切です。
検証可能性
検証可能性とは、調査や実験などによって仮説を科学的に検証できるか、ということです。
科学的に検証できない研究テーマを選んだ場合、当然ながら研究によって結論を導き出すことはできません。
研究テーマの検証可能性を判断するためには、以下の2つに着目しましょう。
- 仮説が正しい、あるいは間違っていることを証明できる可能性があるか
- 仮説の結論に再現性があるか
また、研究環境の問題で検証が難しいというケースもあります。検証可能性を判断する際は、検証方法が現実的であるかを考えることも必要です。
研究テーマの見つけ方
ここでは、研究テーマを見つけるためにやるべきことを解説します。
- 興味関心のある分野を調べる
- 指導教員・研究室で対応可能な分野を調べる
- 先行研究を調査する
- 再現実験を行う
- 指導教員に相談する
- 仮説を立てる
興味関心のある分野を調べる
まずは、興味関心のある分野について調査し、そこから発想を膨らませましょう。興味のある研究テーマであれば、高いモチベーションで研究活動に取り組めるでしょう。
もちろん、研究テーマを決める際は、研究室の方向性や研究トレンドといった観点も重要です。しかし、興味関心が持てなければ、熱意をもって研究に取り組めない可能性があります。
研究室で対応可能な分野を調べる
研究テーマを決める上では、指導教員・研究室で対応可能な分野を調べることも大切です。
指導教員・研究室ごとに、方向性や強みはさまざまです。研究したいテーマがあったとしても、「研究に必要な設備がない」「指導教員の専門分野ではない」などの理由から、その指導教員・研究室で研究活動を進めるのが難しいケースも少なくありません。指導教員や研究室によっては、指導教員が提案する研究テーマ候補の中から選ぶ、という方針をとっていることもあります。
特に理系の場合は、実験設備の有無が検証可能性に大きく影響します。自身が指導を受けることを希望する教員の研究室の方向性や強み、施設・設備などを確認し、対応可能な分野を調べておきましょう。
先行研究を調査する
研究テーマ選びでは、先行研究の調査が欠かせません。
先行研究とは、自分が研究しようとしているテーマと同じ分野ですでに発表されている研究のことです。新規性がある研究テーマを選ぶためには、取り組みたい研究テーマと全く同じテーマの先行研究が存在していないかを確認する必要があります。
また、先行研究の調査を通じて、どこまでが明らかになっているのか、先行研究にどのような課題や限界があるかなどを理解できるのもメリットです。先行研究の課題や限界を起点に、新たな研究テーマを見つけられる可能性があります。
先行研究の調査方法
先行研究を調べる方法としては、以下が挙げられます。
- J-StageやGoogle Scholar、CiNii Researchなどで論文を検索する
- 図書館や出版書誌データベースを活用して書籍を探す
- 国立国会図書館オンラインを活用してオンラインで書籍を探す
論文を調べる際は、国内だけではなく海外の論文にも目を通しましょう。
再現実験を行う
特に理系の場合には、先行研究に目を通すだけではなく、実際に再現実験を行ってみることも大切です。
再現実験では、先行研究と同じ条件・手順で研究を行い、同じ結果になるかを確かめましょう。先行研究と同じ結果にならなかった場合は、その理由を分析することで、結果に影響を与える新たな要素を見つけられるかもしれません。
再現実験を行うことで先行研究の課題や限界がわかり、そこから研究テーマのアイデアを得られる可能性もあります。
指導教員に相談する
研究テーマを考える際は、現在指導を受けている教員や入学後に指導を希望する教員に相談するのもよいでしょう。
指導教員は、研究テーマを見つけるヒントやテーマをさらに深めるためのアドバイスをくれる心強い存在です。研究テーマ選びに行き詰まった時こそ、指導教員の力を借りましょう。
相談を有意義な場にするためには、研究テーマの候補やこれまでに調べた先行研究など、現状を具体的に共有することが大切です。より具体的かつ的確なアドバイスをもらえるでしょう。
なお、大学院の入学試験を受験する前の段階であれば、希望する指導教員に連絡をとり、自身の考えている研究テーマで指導が受けられるかを問い合わせることがおすすめです。
仮説を立てる
研究テーマの候補を洗い出した後は、テーマを仮決めして仮説を立てましょう。仮説を立てることで、研究活動の一連の流れを考えられるようになり、新規性や有用性、検証可能性などを判断しやすくなるためです。
テーマについて仮説を立てた後、それを検証するための方法や予想される結果を考えます。そして、結論を導き出せる見込みがあるか、結果や結論は社会の役に立つものか、新規性はあるかなどを判断しましょう。問題がなければ、研究テーマ決定となります。
新規性のある研究テーマを見つけるためのポイント
新規性のある研究テーマを見つけるためには、どこに新規性を持たせるかを考えることが重要です。先行研究をベースに新規性を追加することで、新たな研究テーマを見つけられる可能性があります。
具体的には、以下のような要素に注目して新規性を追加すると良いでしょう。
- アプローチ:先行研究と異なる切り口から研究を行う
- 対象:先行研究と異なる研究対象を設定し、同じ方法で結果がどう変わるかを分析する
- 方法:先行研究と異なる手法で研究を行う
- 理論:新しい理論を過去の研究に適用させる
- データ:先行研究と異なるデータセットを使用する
- 結果:先行研究の再現性が低い場合、結果が変わってしまう理由を分析し、再現性を向上させる方法を特定する
その際は、なぜその要素を先行研究から変更する必要があるのか、論理的に説明できるようにする必要があります。
研究テーマが思いつかない時の対処法
以下では、研究テーマ選びに難航した際の対処法を3つ紹介します。
- 研究トレンドを参考にする
- 自分の強みを考えてみる
- 学会や研究会に参加する
研究トレンドを参考にする
研究テーマが見つからない場合は、研究トレンドを参考にしてみるのがおすすめです。
時代ごとに、活発に研究されている分野や注目されている技術が存在します。例えば、近年では生成AIやビッグデータ、5G、自動運転、ドローンなどが注目されています。研究トレンドを参考にテーマを考えることで、有用性が高い研究テーマを見つけられるかもしれません。
もちろん、研究トレンドのみを意識すればよいというわけではありません。トレンドになっていない領域に自分のやりたいことがあったり、これから注目される可能性を秘めた技術が眠っていたりすることもあるでしょう。
しかし、研究テーマを幅広い視点から考えるためには、自分の興味関心に加えて研究トレンドを参考にするのも1つの方法です。
自分の強みを考えてみる
自分の強みを発揮できる研究テーマを探す、という視点も重要です。
自分の強みとしては、過去の研究活動によって得られた成果や、所属する研究室が保有しているノウハウや実験装置、担当教員の専門分野などが挙げられます。
強みを活かせる研究テーマが見つかれば、研究をスムーズに進められる可能性が高いです。
学会や研究会に参加する
漠然と興味のある分野はあるものの、特定の研究テーマを選べないという場合は、その分野に関する学会や研究会に参加してみると良いでしょう。
研究発表を聞くことで、まだ解決されていない課題を発見できたり、興味のあるテーマが見つかったりする可能性があります。その分野の研究トレンドや研究手法、仮説の立て方など、自身の研究活動に役立つ情報を得られることもあるでしょう。疑問点を直接発表者に質問することも可能です。
研究テーマを見つけるヒントを得るために、興味のある分野の学会や研究会には積極的に足を運ぶことをおすすめします。また、学会誌に目を通すことも有益です。各分野の主要な学会誌や学術誌は大学図書館に所蔵されていることが多いため、図書館で手に取ってみるのも1つの方法です。
大学院での研究テーマに関するよくある質問
最後に、大学院での研究テーマに関するよくある質問と回答を3つ紹介します。
- Q.大学院の研究テーマはいつまでに決める必要がある?
- Q.研究テーマを途中で変えることは可能?
- Q.学部での研究内容と全く異なる研究テーマを設定してもよい?
Q.大学院の研究テーマはいつまでに決める必要がある?
A.大学院の研究テーマは、大学院入試までにある程度決めておく必要があります。大学院入試では研究計画書の提出が求められるケースが多く、研究計画書には研究テーマを記載する必要があるためです。
また、研究テーマは大学院選びや指導教員・研究室選びにも大きな影響を与えます。「自身がやりたいテーマを研究できるか」を基準に大学院や研究室を選ぶためにも、学部4年の段階で研究テーマを固めておきましょう。
なお、入学前に決めた研究テーマで必ずそのまま研究活動を進めなければならない、というわけではありません。大学院入学後に、指導教授と相談し、研究テーマの見直しや再検討をする機会が与えられます。
Q.研究テーマを途中で変えることは可能?
A.研究テーマを途中で変えることは可能です。特に、大学院入学後に当初の研究テーマから変更するケースは珍しくありません。
また、研究活動の成果がどうしても出ない場合に、研究テーマを途中で変更することもあります。研究テーマ自体に問題がある場合は、テーマを変えることで研究活動がスムーズに進むようになる可能性があります。
なお、研究テーマを変更する場合は、事前に指導教員に相談することが必要です。
Q.学部での研究内容と全く異なる研究テーマを設定してもよい?
A.学部で研究していた内容と全く異なる研究テーマを設定することも可能です。研究活動を進めるうちに、新たな分野への興味関心や別の課題意識を持つことは珍しくありません。実際、大学院に進学する方の中には、学部とは別の研究を行う方も一定数います。
大学院入試の際も、新たな分野に挑戦したい理由や研究ビジョンを明確に説明できれば、研究の分野を変えたとしても、評価されないことはないでしょう。
ただし、新たな分野に挑戦することは容易ではなく、成果が出るまでに時間がかかる可能性があります。はじめての分野の先行研究を読み込む必要もあるため、一から学び直す覚悟と新しい研究テーマへの強い情熱が必要です。
まとめ:大学院での研究テーマ選びは学部のうちから始めよう
大学院に進学する上で、研究テーマ選びは重要なイベントです。研究テーマには新規性や有用性、検証可能性が求められ、テーマ選びに苦戦する方は少なくありません。
研究テーマを選ぶ際は、自分の興味関心をベースに、研究室の方針や研究トレンドなども考慮しましょう。そして、先行研究を調査して新規性を見出したり、指導教員からアドバイスを受けたりすることが大切です。
研究テーマ選びは、大学院での研究活動に大きな影響を与えます。納得のいくテーマを選べるよう、学部のうちからテーマについて考え、多角的な視点からテーマを検討しましょう。