大学院進学

社会人から大学院に入る3つのメリットとは?選び方や入学方法も解説

学部を卒業して社会人を経験した後に、あらためて大学院への進学に興味を持つ方もいるでしょう。社会人としての経験から社会への問題意識が芽生え、学術的な観点から課題解決に取り組みたいということもあるでしょう。しかし、社会人が大学院に進学することにどのようなメリットがあるのか悩んだり、仕事と両立できるかに不安を感じたりすることもあるのではないでしょうか。

この記事では、社会人が大学院に通うメリット、仕事と両立するための大学院の選び方、社会人が大学院に入学する方法を解説します。

社会人が大学院に通うメリット

社会人が大学院に通うことにはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは以下の3つのメリットを解説します。

  1. 専門性を身につけてキャリアの可能性を広げられる
  2. 大学で得た知識と社会人経験を活かして研究できる
  3. 大学院で新しい人脈が作れる

1.専門性を身につけてキャリアの可能性を広げられる

大学院で身につけた専門性や経験は企業から評価されるため、キャリアの可能性を広げられるのが1つのメリットです。例えば、学んだ知識を元に起業したり、情報学系の大学院で学んだAIの知識や技術、ビッグデータなどを扱うデータサイエンスの知識や技術を使って、システム開発会社への就職の道を拓いたりできます。

企業によっては、MBA(経営学修士)などの大学院でしか取得できない学位を取得していることを採用条件に定めていることもあります。特に大学教員になるためには大学院を修了していること(博士後期課程に進学していること)が不可欠です。また近年では、私立中学・高校の教員でも修士学位の取得を採用の条件として求めている、あるいは取得を推奨しているケースも少なくはありません。

また、大学発ベンチャー企業に就職する道も拓けます。大学発ベンチャー企業は、大学と共同開発を行ったり、研究成果に基づいた技術やビジネス手法を事業化したりする企業です。大学院で学んだノウハウを業務に活かせるでしょう。

2.大学で得た知識と社会人経験を活かして研究できる

多くの大学院生が、学部で得た知識や課題意識などをもとに、大学院で研究を進めます。
社会人ならではのメリットとして、大学で得た知識に加え、社会人経験を活かして研究できる点が挙げられます。

社会人としての経験を経て、仕事で使う技術や、人の心の動きなど、さまざまな分野で課題を感じたり、問題意識を持ったりすることもあるでしょう。実際に社会に出たことで、理論と現場の乖離を感じることもあると思います。大学院では学術的な視点から、そういった課題の解決に取り組むことができます。

大学院での研究や課題解決を通して、自らの専門分野について深い知見が得られます。教員や他の大学院生たちと議論したり、意見を交わしたりすることで、自らにない視点に触れられることは大きな魅力と言えるでしょう。

3.大学院で新しい人脈が作れる

研究や授業を通して、大学教員や大学院生とのつながりを持てます。専門分野についての意見交換や議論などの研究交流を行ったり、切磋琢磨しながら研究に励んだりすることは、企業等で勤務する中ではなかなか経験できない貴重な機会です。

特に学会や国際シンポジウムに出席すれば、専門分野で高い成果を出している研究者と交流したり、自身の研究発表に対してフィードバックをもらったりできます。そういった研究者間のつながりから、専門分野について最新の知識を得ることで、自らの成長につなげられます。

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社会人の大学院進学に適した研究科とは

社会人が大学院に進学する際、重要になるのが仕事との両立です。大学院や研究科によっては、社会人が通いやすい仕組みを整えていることもあります。

なお、同じ大学院であっても、研究科によって制度の有無が異なるケースは珍しくないため、注意が必要です。

早期修了できる研究科

早期(短縮)修了とは、通常よりも短い期間で大学院を修了できるシステムのことです。在学期間以外の修了要件を満たしたうえで優秀であると認められた場合、博士前期課程(修士課程)では、1年で修了できる例もあります。

企業のリカレント制度を活用して大学院で学ぶ場合や、仕事と学業の両立のために忙しいスケジュールを送る必要がある場合などは、早期修了できる研究科を選ぶと良いでしょう。

夜間開講を実施している研究科

大学院や研究科によっては夜間や土日に授業を開講しており、働きながら通えるようになっています。オフィス街にサテライトキャンパスを設け、平日の夜でも通いやすくしているケースもあります。近年ではオンライン授業を活用しているケースも見受けられます。

中には、土日のみ開講しており、土日に通学すると修了できる大学院も存在します。

社会人が大学院を選ぶ際の3つのポイント

社会人が大学院を選ぶ際、どのようなポイントに注目すればよいのでしょうか。3つのポイントを解説します。

1.興味がある分野から絞る

大学院に進学する前に、自分が大学院に進学する理由を明確にしましょう。大学院は同じ研究科・専攻でも教員や研究室などの違いで研究内容が異なるため、進学の目的を出願前にしっかりと定めておくことが重要です。

分野を絞るには、社会人としての経験から興味・関心が深まった分野や、身につける必要があると感じた知識やスキルから検討するとよいでしょう。興味のある分野に関わる研究をしている大学院を調べたり、必要な知識やスキルが身につく研究科や専攻を絞ったりする中で、自分が行きたい大学院が決まります。

2.授業の実施日に合わせる

進学したい大学院の授業の実施日を確認しましょう。大学院進学後も仕事を継続するのであれば、当然、仕事と大学院での学びの両立が難しくなります。一般的には平日の昼がコアタイムになる場合があるため、仕事の時間と重なる可能性が高くなります。自身の仕事と重ならない時間帯に授業を実施していたり、研究指導を受けることができたり、自身のライフスタイルに合った大学院を選ぶことが重要です。

大学院によっては平日夜間や土日を中心に授業を行うところもあります。平日の昼間は仕事が忙しく、なかなか時間が取れない方はそのような大学院への進学を検討するのもよいでしょう。
例えば、中央大学大学院の国際情報研究科では平日夜間と土曜日に授業を実施するため、平日の昼間に仕事がある方でも授業に出席しやすいです。中央大学専門職大学院のビジネススクール(戦略経営研究科/MBA)も平日夜間と土日に授業を行っています。

3.大学院の場所から選ぶ

引っ越すのが難しい方は、仕事と両立しながら通学できる場所にある大学院を選ぶことが重要です。

興味のある分野の大学院が近くにない場合は、オンライン授業を行う大学院へ進学することを検討しましょう。中には、オンライン授業やオンラインと対面を組み合わせたハイブリッド型(ハイフレックス型)の授業を展開している大学院もあります。距離が遠く行きたい大学院への通学が難しい場合、まずは授業形式を確認してみましょう。

社会人の大学院選びから入学までの流れ

社会人が大学院に入学するまでの流れを解説します。

社会人が学びやすい大学院を探す

まずは興味関心のある分野で、自身に合った学びやすい環境の大学院を探しましょう。必要に応じて、夜間や休日に授業や研究指導を行っているか、オンライン授業を展開しているかも確認しましょう。

大学院を探す際は、以下の2つのサイトを活用すると良いでしょう。

  • マナパス:文部科学省が運営する、大学院で学びたい社会人向けのポータルサイト。項目ごとに希望する条件をチェックすると、ニーズに合う大学院がピックアップされる
  • 大学ポートレート:国公私立の大学・短期大学1000校以上が参加し、教育情報を公開しているポータルサイト。設置形態やエリアなどを入力すると大学院がヒットし、各大学院の基本情報を一覧で確認できる

マナパス
大学ポートレート

中央大学大学院では、2023年4月から国際情報研究科を開設し、社会人の受け入れも念頭に置いた授業が実施されています。国際情報学研究科は、情報や情報に関する法律・規範を学ぶ大学院です。情報技術やそれらに関する法律に興味がある方はぜひ検討してください。

進学説明会や教員(研究室)訪問に参加する

進学したい大学院や研究科の目星がついたら、進学説明会に参加したり、指導を希望する教員(研究室)に連絡をとってみたりしましょう。
インターネットやパンフレットの情報のみをもとに進学先を決めると、「雰囲気が合わなかった」「やりたかった分野を研究できなかった」などの事態に陥るリスクがあります。

進学説明会では、大学院や研究科に関する基本的な情報だけでなく、実際の大学院生の声や1日のスケジュール、入試情報など、進学にあたって役立つさまざまな情報を入手できます。説明会終了後にキャンパスツアーや研究室見学の時間を設けているケースもあり、進学後のイメージを持ちやすいです。説明会を個別で実施している場合や、説明会終了後に個別相談に応じてくれる場合は、進学に関する悩みを大学院生や教員に相談できます。

研究室訪問では、希望する研究室を事前に訪れ、研究室の雰囲気や研究内容、指導教員の方針などを知ることができます。自分のやりたい研究が本当にできるのか、どのような環境で研究できるのかなど、研究室選びに役立つ情報を収集できます。研究室選びにおける疑問や不安の解消にもつながるでしょう。

いずれも、事前に聞きたい情報を整理し、聞き漏れがないようにすることが大切です。また、事前申し込みや教員とのアポイント獲得が必要です。

https://graduate.chuo-u.ac.jp/media/index.php/2023/05/29/graduate-school-information-session/

大学院の研究室訪問はなぜ重要?進め方や聞くべき質問も解説大学院での所属研究室(あるいは、どの教員から指導を受けるのか)は、大学院生活において自分がどれだけ充実した時間を過ごせるかに大きく影響し...

試験内容を調べて対策する

受験する大学院が決まったら、試験内容を調べて対策しましょう。

大学院入試では、一般入試の他に社会人入試が実施されていることが多いです。どちらの入試方式で受けるのかを決める必要があります。

社会人入試は、小論文や口述試験(面接)が中心で、実務経験などに鑑み、専門科目の試験が課されていないケースも存在します。その場合は興味関心のあるテーマを調べて小論文を書いたり、模擬面接を重ねたりする等の対策をとりましょう。

一般入試は学部の卒業生と同様の試験となり、筆答試験(筆記試験)においては、専門科目と外国語科目が課されていることがほとんどです。専門書や文献を読んで専門知識を深めておくことが重要です。また外国語の試験についても、リーディングやライティングなどを対策しておきましょう。

研究計画書を作成する

大学院入試では出願書類の一つとして、研究計画書を提出します。研究計画書は大学院に入学した後、研究したいテーマがどのようなもので、それをどのようにして研究を進めていきたいかをまとめる書類です。研究計画書は面接でも使用され、その内容を深掘りされます。面接でスムーズに質問に答えられるように、研究したい内容や志望動機を整理しておくことが大事です。

特に社会人が大学院の入試を受ける場合は、志望動機や実務経験との関連を詳しく記載しましょう。自身が研究したい分野やテーマの背景についてわからないことが多い場合は、CiNii Research(https://cir.nii.ac.jp/)などの文献データベースを活用したり、教員訪問で話を聞いたりするなどして、あらかじめ知識を身につけたり、情報を収集した上で作成するとよいでしょう。

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社会人が大学院に進学する際の注意点

社会人が大学院に進学するにあたって、以下の点に注意が必要です。

  • 仕事と研究活動を両立できるか
  • 学費を問題なく支払えるか
  • 家族に協力してもらえるか
  • 職場からの理解を得られるか

これらの点をクリアにしたうえで、進学に必要な準備や手続きを進めることが大切です。

仕事と研究活動を両立できるか

休みを取得せず仕事をしながら平日の夜や土日などに大学院に通う場合は、両立できるかをよく検討する必要があります。大学院に進学したものの、残業が多くてなかなか授業に出席できないこともあるでしょう。時間的に両立できるものの、体力の問題で挫折してしまうリスクもあります。無理せずに両立可能であると判断したうえで、進学準備を進めることが望ましいです。

また、大学院の場合は、授業に出席するだけでなく、自身で研究活動を進めることも必要です。実りある研究活動のためには、多くの時間がかかるため、研究との両立についても忘れずに考慮しましょう。

仕事をしながら通う場合は、前述のように、オフィスの近くにあるキャンパス、またはサテライトキャンパスがある大学院、あるいはオンライン授業を活用している大学院などを選ぶと良いでしょう。

学費を問題なく支払えるか

大学院への進学には、一定の学費が発生します。以下の表で初年度に納める学費の目安をまとめています。

入学料 授業料 施設設備費
国立大学院 地域内:22万8,546円

地域外:36万7,779円

53万6,224円 なし

(※施設設備費が別途必要な場合あり)

私立大学院 21万86円 74万3,629円 7万2,688円

参考:2021年度学生納付金調査結果
参考:私立大学等の平成29年度入学者に係る学生納付金等調査結果について

他にも、以下のような費用が発生します。

  • 入学検定料
  • 大学院への交通費
  • 研究活動にかかる費用(書籍代や交通費など)
  • 学会にかかる費用(年会費や交通費、宿泊代など)

大学院に進学している間、仕事量をセーブしたり仕事を休んだりする場合は、その分収入が減ってしまうかもしれません。収入の見込みを把握したうえで、問題なく費用を支払い続けられるか、検討することが大切です。

家族に協力してもらえるか

家族と同居している場合は、家族に協力してもらうことも検討しましょう。
大学院に通っている間は、収入が減る、忙しさゆえに家事まで手が回らなくなる、家族と過ごす時間が減るなどの変化が生じることがあります。

なぜ大学院に通いたいか、大学院で何を学びたいかなどを家族に丁寧に説明し、協力を仰ぎましょう。

職場からの理解を得られるか

家族と同様に、職場からの理解も不可欠です。通学のために残業に応じられない、試験や研究活動の都合で、どうしても仕事を休まなければならないことがあります。

職場に相談し、働きながら大学院へ進学できるかを事前に確認しましょう。相談することで、リスキリング、リカレント教育などを支援する社内の制度を紹介してもらえる可能性があります。

まとめ:興味のある分野があるなら社会人から大学院進学も検討しよう

大学院は研究を通して、興味のある分野についての知見を深められるほか、研究や授業を通して得られる知識や経験からキャリアアップを図ることもできます。社会人経験で課題意識を覚える領域がある、大学院での経験からキャリアアップを図りたいという場合は入学を検討してみましょう。

一方、時間や距離といった点から仕事との両立に困難を抱えるなど、社会人ならではの課題もあります。休日や夜間の授業が行われているか、オンラインで授業を行っているかなどを確認し、仕事と両立がしやすいなど、自身のライフスタイルにあった大学院を選びましょう。