大学院進学

院進?就職?文系学部生が進路を決めるポイントやキャリアを解説

文系の学部生の中には、大学院に進学するか、就職するかで悩んでいる方も多いでしょう。まずは、院進(大学院進学)と就職それぞれのメリットを理解し、自分がやりたいことが何かを考える必要があります。

この記事では、学部卒で就職する場合と大学院修了後に就職する場合のそれぞれのメリットや、院進するか・就職するかの進路選択に迷った時にすべきことなどを解説します。進路選択に悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。

文系の学部生が大学院に進学するメリット

文系の学部生が院進するメリットは、以下の通りです。

  • 学部よりも専門的な知識を身につけることができる
  • 専門的な職業に就きやすくなる
  • 高度な論理的思考力や分析力が養われる

ここでは、文系の大学院に進学するメリットについて解説します。

学部よりも専門的な知識を身につけることができる

大学院に進学する大きなメリットは、学部よりも専門的で高度な知識の修得や研究ができることです。

大学(学部)では、一定程度の専門性とともに基礎的な教養として幅広い分野についても学び、単位を取得する必要があります。一方、大学院の場合は自分の専攻する分野の研究とそれに関連する授業の履修・単位取得が中心となるため、興味関心のある分野を重点的に学び、研究する機会が多いです。

大学院では研究活動を進める環境も整っています。高い専門性を持つ教員のもとで、集中して研究活動に打ち込めます。講義や演習のレベルは高く、教員との距離も近いため、質問や議論を通して学びを深められるでしょう。学会に出席して各分野の専門家と交流し、知見を広げられる可能性も高いです。

このように、大学院は学部よりも専門的な研究ができる環境が揃っているため、突き詰めたい学問分野やテーマがある方は進学することが望ましいです。

論理的思考力や分析力が養われる

大学院で身につく高度な専門知識は、特定の職種や業界で必要とされることが多いです。
例として、法曹のような専門的な職業が挙げられます。

法曹職(弁護士、検察官、裁判官)を目指す場合、法学の知識を大学院で学ぶことで、司法試験を受験するための基礎資格を得ることができます。法科大学院(専門職大学院)では、実際の裁判や事件に関するケーススタディを通して、法律の理論だけでなく法律を実務に適用する能力が養われます。

また、税理士を目指す人にも大学院進学が有利に働くこともあります。大学院で、「税法」に属する科目等の研究(主に修士論文の執筆)を行った者については、税理士試験での試験科目の免除を受けられる可能性があります。詳細は国税庁のHPに掲載されています。

論理的思考力や分析力が養われる

大学院では、専門分野に関する高度な知識やスキルだけでなく、論理的思考力や分析力といった、あらゆる場面で役立つ重要な能力も養われます。

大学院の授業では、1つの文献を読んで議論を深めたり自分の考えをプレゼンしたり、論文を書いたりする機会が多いです。日々の研究活動によって磨かれたこうしたスキルは、どのような進路に進んだとしても、社会で活躍するうえで大きく役立ちます。

文系の学部卒で就職するメリット

大学院に進学せずに学部卒で就職することには、以下のようなメリットがあります。

  • 早く実務経験を積める
  • ポテンシャルを求める企業が多い

ここでは、学部卒で就職するメリットについて解説します。

早く実務経験を積める

学部卒の学生は大学院修了よりも2年早く就職することになるため、その分早く実務経験を積めます。

会社から高い評価を得るために自己研鑽は必須ですが、実務を通して、さまざまな経験から会社の利益に貢献するための知識やスキルを習得でき、評価されるチャンスが増えるのは大きなメリットです。

ポテンシャルを求める企業が多い

企業は学部卒の新入社員に対して、即戦力となるスキルよりもポテンシャルの高さを求めている場合が多いです。そのため、社員のスキルアップのために、研修や教育を熱心に行う企業が多く存在します。入社してすぐに活躍できるか不安な方でも、ビジネスで必要な知識やスキルを習得できます。

また、学部卒の就職活動では、知識やスキルよりも人柄やポテンシャルを重視して判断していることが多く、「即戦力となるために必要な専門性やスキルが不足している」という理由で採用されない可能性は低いでしょう。

ただし、法務や調査・研究に携わる職種など、業務内容の専門性が高い場合には、、採用においても専門性が重視される場合が多いです。このような企業・職種では、ポテンシャルよりも、大学院で身につけられるような高い専門性やスキルが求められる点に注意が必要です。

文系大学院を修了後に就職するメリット

文系大学院を修了後に就職するメリットは、以下の通りです。

  • 大学院での学びを活かした進路を選べる
  • 就職後の初任給が高い
  • 生涯年収が高い傾向にある

ここでは、大学院修了後に就職するメリットについて解説します。

大学院での学びを活かした進路を選べる

大学院での学びを活かし、大学院で培った専門性や能力を活かした進路を選べるようになります。
文系の大学院での学びを活かせる進路の例は、以下の通りです。

  • 研究者・大学教員
  • 学芸員・心理職などの専門職
  • 公務員・国際公務員
  • 民間企業の研究職
  • 税理士・司法書士などの士業
  • 私立中学・高等学校の教員

そのほか、大学院での研究内容に直接関係がない進路も、選択肢の1つです。大学院で身につけた論理的思考力や分析力、幅広い視野や専門的な知識などを総合的に活かして、企業で活躍している方も多く存在します。

以下では、それぞれの進路について解説します。

研究者・大学教員

大学院において専門分野の研究を究め、研究者を目指す方は多く、博士前期課程(修士課程)修了後、博士後期課程に進学するケースがほとんどです。研究者になるために、大学の専任教員・特任教員・非常勤講師のいずれかとして働くことになります。

研究者になるうえでは、大学院で修得する専門知識やスキルが欠かせません。また、採用条件に修士号・博士号を取得していることが定められている場合がほとんどです。

学芸員・心理職などの専門職

大学院で得られる専門知識やスキルを活かせる進路として、学芸員や、公認心理師・臨床心理士などの心理職が挙げられます。こうした専門職の中には、指定された科目を開設する大学院において該当科目を履修・修了して受験資格を満たすことが求められるケースも多いです。大学院で身につく専門性を活かした進路と言えるでしょう。

公務員・国際公務員・司書

公務員の中でも、国際機関で働く「国際公務員」になるためには、修士号以上の学位が求められるケースが多くみられます。各国際機関が求める専門領域の修士号以上の学歴が必要とされるため、大学院進学が必須です。

また、公立図書館や大学図書館の司書として働くためにも、図書館情報学や関連分野の修士号が求められることが多いです。大学院では、図書館の運営や管理、情報リテラシー教育、デジタルアーカイブの構築など、現代の図書館業務に必要な専門的な知識や技術を深く学ぶことができます。また、実際の図書館でのインターンシップや実習を通じて、実務経験を積むことも可能です。

民間企業の研究職

民間企業にも、研究職が存在する場合があります。たとえば、銀行や保険といった金融系企業では、調査・研究のためのポストが存在します。多分野の研究・調査を行うシンクタンクにも研究職が存在し、文系の大学院修了者が採用される可能性が高いです。

例えば、消費者心理の統計解析、市場調査やユーザーニーズの探求、新たなビジネスモデルの構築といった業務などで、大学院時代で培った専門知識やスキルを使えます。

私立学校の教員

私立の高校・中学の教員採用においては、修士号を取得していることを条件としている学校が増えています。大学院で修得した専門的な知見に基づき、教育・指導を行える人材が求められています。こうした学校に教員として就職したい場合には、大学院に進学する必要があります。

その他の大学院で培った能力を発揮できる進路

大学院での研究内容に直接関係がない進路も、選択肢の1つです。大学院で身につけた論理的思考力や分析力、幅広い視野や専門的な知識などを総合的に活かして、企業で活躍している方も多くいます。

一例としてコンサルティングが挙げられます。コンサルティングは、企業や組織が直面する課題や問題を解決するために、外部の専門家がアドバイスや提案を行う仕事です。文系の大学院生が持っている論理的思考力や分析力は、クライアントのビジネス課題を深く理解し、効果的な解決策を導き出すために非常に有効です。

また、文系の学問は多様な分野にまたがっているため、幅広い背景知識を活かして、多角的な分析や提案を行うことが可能です。これは、多種多様な業界や業種のクライアントとのコンサルティング業務において、大きな強みとなります。

就職後の初任給が高い

就職後の初任給や給与水準については、学部卒よりも大学院修了の方が高い傾向にあります。

実際、厚生労働省が発表した「令和元年賃金構造基本調査結果」によると、学歴別の初任給は次の通りです。

最終学歴 初任給
大学院修士課程修了 238,900円
大学卒業 210,200円
高専・短期大学卒業 183,900円
高等学校卒業 167,400円

このように、修士課程修了と大学卒業では、初任給に3万円近い差があります。

参考:厚生労働省「令和元年賃金構造基本統計調査結果(初任給)の概況:1 学歴別にみた初任給」

生涯年収が高い傾向にある

学部卒と大学院修了の生涯年収のデータを見ると、大学院修了の方が高い傾向にあります。

少し古いデータではありますが、内閣府が2014年に発表した調査結果では、生涯賃金年収は以下の通りです。

男性 女性
大学院修了 3億4009万円 3億1019万円
学部卒 2億9163 万円 2億6685 万円

出典:内閣府経済社会総合研究所「大学院卒の賃金プレミアム―マイクロデータによる年齢-賃金プロファイルの分析― 」

このように、大学院修了と学部卒では、生涯年収に5,000万円ほどの差があり、大学院修了者の方が生涯年収が高い傾向にあることがわかります。

厚生労働省の調査では、2014年から2021年まで、賃金は横ばいで推移しています。ここから、学部卒と大学院卒の生涯年収については、現在も状況は大きく変わっていないと考えられるでしょう。

参考:厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査 結果の概況」

大学院進学と就職で迷ったら

大学院進学か就職かで迷った場合、以下の行動をとることがおすすめです。

  • 大学院に進学したい理由を考える
  • 先輩から話を聞く
  • インターンシップに参加する
  • 教員訪問(研究室訪問)に行く

将来の選択に迷ったときは、さまざまな情報を収集して、視野を広げることが重要です。また、なぜ自分が迷っているのか、なぜ大学院に進学したいのか、その理由について分析する必要があります。

ここでは、進路選択で迷った際にすべきことについて解説します。

大学院に進学したい理由を考える

まずは、なぜ大学院に進学したいと考えているか、理由を整理してみましょう。大学院進学か就職かの選択は、社会に出るタイミングや人生経験に影響を与えるため、大きな決断です。そのため、明確な目的を持って選択する必要があります。

進学したい理由や目的が明らかになれば、迷いなく進路を選べるでしょう。

先輩から話を聞く

進路に迷ったら、先輩から話を聞き、アドバイスをもらうことが有効です。可能であれば、文系の大学院を修了した後に就職した先輩と、学部卒で就職した先輩の両方から話を聞いてみることが望ましいです。

大学院に進学した先輩の就活事情や就職を選んだ理由など、実体験に基づく貴重な情報を収集でき、意思決定に役立ちます。

インターンシップに参加する

就職活動を始めることも、進路を決めるうえで参考になります。

就職活動というと、学部4年生から始めるものというイメージがあるかもしれません。しかし、多くの学部生が、学部3年の夏から就活の準備をスタートします。学部3年の夏に実施されるサマーインターンシップに参加する学生も多いです。

就職後のイメージがつかないまま判断しようとしても、納得のいく意思決定をすることは困難です。インターンシップに参加すれば、会社で働くということに具体的なイメージを持てるようになります。興味のある業界・業種や企業について研究し、自分のやりたい仕事が実現できそうか検討することも重要です。

教員訪問に行く

深めたい分野が決まっている場合は、自分が指導教員として希望する大学院の教員を訪問し、どのような環境で研究できるのか、自身の教務関心がある分野は学べるのかなどを確認しましょう。大学院進学後に指導を希望する教員への訪問に加え、学部でゼミや研究室に所属している場合は、そこで担当教員に相談するのも1つの方法です。

教員訪問に行った結果、学びたい学問を突き詰められることがわかり、院進したいと思うようになるかもしれません。インターンシップと教員訪問のどちらも体験した結果、企業で働くことにより魅力を感じる可能性もあります。

理想と現実にギャップがないかを直接確かめられると、将来の選択肢を選びやすくなるでしょう。

文系大学院生の就活で気をつけるポイント

文系大学院生が就活で気をつけるべきポイントを3つ解説します。

  • 目的を持って研究を続ける
  • 研究をビジネスにつなげる力をつける
  • コミュニケーション能力を磨く

目的を持って研究を続ける

就職活動の際には、大学院での研究をどのように社会やビジネスに役立てるのか、具体的な目的やビジョンが求められます。

研究に取り組む際に、将来のキャリアパスや希望する職種を明確にし、そのためにどのようなスキルや知識が必要かを事前に考えることが大切です。

研究をビジネスにつなげる力をつける

自分の研究を社会に役立てるビジョンを考えたら、実践してみましょう。例えば、実習やインターンシップに参加することで、研究の成果やアプローチを実際のビジネスの現場で試すことができます。

また、業界の動向やニーズを定期的にチェックすることで、自らの研究テーマが現実のビジネスや社会問題とどのようにリンクしているのかを把握できます。さらに、研究の過程で得た知見やデータを定期的に公開し、業界の専門家や関係者からフィードバックを得ることで、研究をより実用的なものにシフトさせることができます。

コミュニケーション能力を磨く

大学院の生活でコミュニケーション能力を磨いておきましょう。ビジネスでは専門知識だけでなく、上司や取引先と円滑に人間関係を築くことも重要になるためです。

他大学の教員や学生と交流する人脈形成力や、研究室で自発的にメンバーの集まりを開くような調整力は就職した後に役立つでしょう。

また、自らの研究分野をわかりやすく伝える力も重要です。ビジネスシーンでは、専門的な用語だとクライアントに理解してもらえないことがあるため、わかりやすい言葉に言い換える力が求められます。日々のプレゼンテーションなどで、極力理解しやすい言葉で説明する練習をしましょう。

まとめ:院進か就職かで迷ったら、やりたいことを考えよう

今回は、大学院進学か就職かで迷っている方に向けて、それぞれのメリットや、大学院修了後の主な進路、迷った時にすべきことなどを解説しました。

大学院進学・就職どちらにもメリットがあります。深く学びたい分野がある方は大学院進学、やりたい仕事があり早く実務経験を積みたいという方は就職するのが望ましいでしょう。後悔のない意思決定のためには、まずは自分が何をやりたいのかを考える必要があります。さまざまな情報をもとに慎重に検討し、やりたいことをより実現しやすい進路を選ぶことが大切です。