ロースクール(法科大学院)とは、法曹(弁護士・検察官・裁判官)に必要な知識や能力を培うことに特化した専門職大学院です。修了することで、法曹になるために必要な司法試験の受験資格を得られます。
しかし、入学のためにはどのような勉強をすればいいのか、学術研究を主とする一般的な大学院の法学研究科とはどのような違いがあるのかなど、わからないことがある方も多いのではないでしょうか。
この記事では、ロースクールの概要や大学院法学研究科との違い、ロースクールに進学する方法や修了後の進路などについて解説します。
ロースクール(法科大学院)とは
ロースクールとは、弁護士・検察官・裁判官といった法曹と呼ばれる職業に必要な専門知識や能力を培う専門職大学院のことです。
法曹になるには国家試験である司法試験に合格し、司法修習や修習の修了試験を経る必要があります。司法試験を受験するためには、その受験資格を得るための予備試験の合格、あるいはロースクールの修了が必須要件となります。そのため、多くのロースクールでは司法試験の合格を目指した教育、また司法試験合格後に法曹として実際に活躍するうえで必要な能力の修得を目指した教育が行われています。
ロースクール(法科大学院)のコースの違い
ロースクール(法科大学院)には、2年コースと3年コースがあります。
2年コースは、法学を学んだことがある人向けの既修者コースです。主に、大学の法学部出身者を対象としています。
一方、3年コースは法学の学習経験がない人向けの未修者コースです。法学系以外の学部出身者や社会人などを対象としています。基礎から法律を学ぶため、3年間のカリキュラムが用意されています。
大学院法学研究科とロースクールの違い
ここでは、大学院法学研究科とロースクールの違いを、取得できる学位やカリキュラム、進路という3つの違いから解説します。
取得できる学位の違い
法学研究科とロースクールでは、取得できる学位にも違いがあります。
法学研究科では、法学分野についての学術的な研究を行い、博士前期課程(修士課程)を修了すると「修士(法学)」、博士後期課程(博士課程)を修了すると「博士(法学)」の学位を取得できます。
一方、ロースクールは、法曹(弁護士・検察官・裁判官)に必要な知識や能力を培うための専門職大学院です。修了することで、専門職学位である「法務博士(専門職)」の学位を取得できます。なお、ロースクールの修了者は修士号取得者と同様に取り扱われ、法学研究科の博士後期課程へ進学することも可能です。
カリキュラムの違い
法学研究科とロースクールでは、カリキュラムにも違いがあります。
法学研究科に比べると、ロースクールの方がより実践的な知識や経験を積めるのが特徴です。一方、法学研究科ではより学術的な内容を学べます。
次の項目で、それぞれで学べる内容を紹介します。
大学院法学研究科で学べる内容
法学研究科では、主として法学分野およびその関連分野に関する研究を行い、研究能力や専門性を高められます。
法学研究科では法学やその関連分野に関する広く豊かな学識を身につけるとともに、研究を進めるために必要な研究手法の修得、論理的で批判的な思考力の修得に向けた教育・研究指導が行われています。
単なる知識の修得だけでなく、研究能力の修得も目的となります。自分の興味関心や研究テーマに沿って、論文を執筆したり、教員との個別指導やゼミを通じて研究能力を高めたりすることが求められます。実務寄りのロースクールと比べ、より学術研究に重点が置かれているのが特徴です。大学教員やシンクタンクの研究員といった研究者養成、あるいは法学分野の高度な知見を有した職業人の養成が目的とされています。
法学研究科の博士前期課程(修士課程)を修了するためには、一般的には2年間で30単位以上を修得し、学位論文(修士論文)の審査と最終試験に合格することが必要です。
ロースクールで学べる内容
ロースクールでは、法曹の実務に必要な専門知識や思考法をはじめ、例えば以下のような科目を学べます。
- 基礎科目(民法・刑法・憲法など)
- 専門科目(企業法・国際法・人権法など)
- 実務科目(交渉術・弁論術・文書作成など)
こうした科目の履修を通じ、司法試験に合格するために必要な幅広い知識を身につけることが可能です。自身の興味関心に応じて学ぶ科目を選択できる場合もあります。また、教員が学生に質問を投げかけ自ら説明させるソクラテスメソッドなど、実践的な教育方法も取り入れられているため、実際の業務に役立つ経験を積めるでしょう。
ロースクールを修了するためには、3年間で120単位以上を修得する必要があります。
進路の違い
法学研究科とロースクールでは、修了後の主な進路も異なります。
法学研究科を修了した後は、法学に関する専門的な知識を活かし、大学や一般企業の研究職に就く方が多いです。また、司法試験を受験して弁護士や検察官、裁判官といった法曹の道に進む方もいます。一方、専門職大学院であるロースクールは大学院の教育自体が法曹を目指すことを主な目的としており、法曹に就くケースが多く見られます。具体的な進路については、記事の後半で紹介します。
なお、大学院法学研究科を修了しても、司法試験の受験資格は得られないため注意が必要です。
ロースクール(法科大学院)に進学するメリット
ロースクールに進学するメリットは以下の通りです。
- 法曹として働くための実践的な知識が得られる
- さまざまな法学の知識を学べる
- 同じ目標を持った仲間と出会える
それぞれのメリットについて解説します。
法曹として働くための実践的な知識が得られる
ロースクールでは、法曹として働くための実践的な知識が得られるのがメリットです。
法学の研究に携わっている教員や、実際に法曹としての数多くの実務を経験している教員(実務家教員)から直接指導を受けられ、実践的な知識やスキルを得られます。
ロースクールでは、実際の裁判例を題材にして、教員が学生に質問を投げかけながら指導する方式が採用されています。これをソクラテスメソッドと呼び、対話しながら法律の原理や論理を理解できるのがメリットです。ソクラテスメソッドでは、法曹として必要な思考力や表現力、主体的に考える力を養えます。
また、ロースクールによっては、海外のロースクールへの留学や国際的な法律事務所でのインターンシップといった、実践的なカリキュラムを用意していることもあります。現場で活躍するためのスキルを磨けるでしょう。
さまざまな法学の知識を学ぶことができる
ロースクールでは、司法試験合格に必要な内容や、法曹の実務で役立つ知識だけでなく、法学に関する分野の基礎知識や、法曹として働くために必要となる倫理観も学べます。
法学は、人権や環境、国際関係や経済など現代社会のさまざまな仕組みや問題と結びついた学問です。ロースクールでは、法学に関連する分野の幅広い知識や視点を身につけられます。
また、法学では「正義」とは何か、「公平」とは何かといった、社会における価値観や道徳観も探究します。これらの概念について考え直すことで、社会についてより深く理解できるでしょう。
こうした知識は、独学や予備校での学習で身につけることは困難です。司法試験合格後を見据え、法曹として働く際に必要な幅広い知識や倫理観を得られるのは、ロースクールの魅力と言えるでしょう。
同じ目標を持った仲間と出会える
ロースクールでは、「司法試験に合格して法曹として働く」という、同じ目標を持った仲間と出会えます。仲間と切磋琢磨しながら学ぶことで、モチベーションを高めたり、充実した経験を得たりできるでしょう。
また、ロースクールで出会った仲間が、将来的には仕事上のパートナーや相談相手にもなることもあります。将来に役立つ人脈を築けるのもメリットの1つです。
ロースクール(法科大学院)に進学する注意点
ロースクールに進む際にはいくつか注意点もあります。
まず、ロースクールでは、法学に関する理論や知識等を、基礎から高度な段階まで学ぶことは難しいです。ロースクールは、法曹に必要な知識や能力を培うことを目的とする専門職大学院であるため、入試や授業の内容は司法試験に沿ったものになっています。基礎から学びたい場合は、未修者向けの3年コースに進学することがおすすめです。
また、ロースクールで得られる経験のみでは、実務経験として十分ではないことも認識しておきましょう。
実際の現場では、法に関する知識や倫理感に加え、コミュニケーション能力や依頼人に対する思いやり、ビジネス理解力などが求められます。これらは、法曹の実務を通して身につくものです。ロースクールで学んだ知識を実務で活かすことで初めて、法律家として成長すると言えるでしょう。
大学院法学研究科に進学するメリット
ここでは、学術研究を主とした大学院法学研究科に進学するメリットを3つ説明します。
- 法学分野の理論的な知識や思考力を身につけられる
- 法曹以外の職業で活躍できる幅広い視野や知識を持てる
- 自分の興味や専門性に合わせて研究内容を選べる
法律分野の理論的な知識や思考力を身につけられる
大学院法学研究科では、ロースクールと比べ、より理論的でアカデミックな観点(学術研究の観点)から法学を学べます。法哲学、法社会学、法制史、比較法学など、法の基礎的・理論的研究にも触れる中で、法律家として幅広い視野や思考力を養えるでしょう。
また、単に既存の法制度や判例をインプットするだけではなく、自ら新しい理論や考え方を提案することも求められます。法学の基礎理論や歴史、現代の法制度などを深く研究し、教員や他の大学院生たちと話し合う中で、高度な専門知識や思考力を身につけられるでしょう。
法曹以外の職業で活躍できる幅広い視野や知識を持つことができる
法学研究科での経験は、研究者や専門職はもちろん、一般企業や公務員などさまざまな職業への就職にも大いに役立ちます。
例えば一般企業では、契約書や社内規程の作成・チェック、紛争や訴訟の対応、コンプライアンスやリスク管理などの業務を担当する法務部門で活躍できるでしょう。法学研究科では応用分野や先端分野の研究も行うため、さまざまな事案に対応できる柔軟性や判断力が身につくのが魅力です。
また、法の知識が必要となる司法書士、税理士、弁理士などの資格を取得する際にも、大学院で習得した知識が役立ちます。専門職以外の職に就く際にも、法学研究科で養った論理的思考力が活かせるでしょう。法学に関する倫理観を活かし、民間人の立場から司法や社会に貢献できます。
自分の興味や専門性に合わせて研究内容を選べる
法学研究科では、自分の興味や専門性に合わせて柔軟に研究内容を選べるのがメリットです。
ロースクールでは、司法試験合格を目標の1つとしているため、それに合わせて科目を選ぶ必要があります。一方法学研究科では、民法、刑法、憲法、国際法、比較法、社会保障法、会社法、競争法、知的財産法など、多数の分野の中から興味関心のある分野を選べます。
大学院法学研究科に進学する注意点
法学研究科に進学する際にも注意点があります。
まず、法学研究科を卒業しても、司法試験の受験資格は得られません。法学研究科に進学した後に司法試験を受けることはできますが、別途予備試験を受ける必要があります。
また、ロースクールと比べ、司法試験に直結した知識や、法曹として働く際の実務知識などを身につけられる機会が少ないこともデメリットです。法曹を目指す場合には、司法試験対策や実務知識の勉強は、自分で行う必要があります。
ロースクール(法科大学院)に進学する方法
ここでは、ロースクール(法科大学院)に進学する方法を紹介します。
ロースクール(法科大学院)の受験資格
受験資格はロースクールによって異なりますが、基本的には大学を卒業していること、もしくは卒業見込みであることが必要です。
ロースクールによっては、何らかの資格や証明などで大学を卒業した者と同等以上の学力があると認められる場合は、大学を卒業していなくても受験資格を得られることがあります。
なお、2年コースは既習者向けですが、試験に合格すれば法学部出身者以外の入学も可能です。
また、3年コースは未修者向けですが、法学部出身者が入学することも認められます。
ロースクール(法科大学院)の出願書類
ロースクールの出願時書は、志願者調書や大学の卒業(見込)証明書や学部の成績証明書の提出が義務付けられていることがほとんどです。TOEICやTOEFLの結果を提出することもあります。
必要書類はロースクールによって異なるため、事前に確認しておきましょう。
ロースクール(法科大学院)の入試内容・科目
ロースクールに進学するためには、学士学位を取得した後に、各ロースクールの入学個別試験を受ける必要があります。
入学個別試験では面接・論文・英語などが出題されます。論文試験は、既修者向けの2年コースでは法律論文、未修者向けの3年コースでは小論文が課されることが多いです。既習者の場合、法学の文献基礎教材を見直し、予備試験で出題される基本的な法律用語や概念を理解しておきましょう。
ロースクール(法科大学院)の学費
ロースクールの学費は、国立の場合年間80万4000円、私立は大学院によりますが、100万円前後となることが多いです。既修者コースの場合は2年間、未修者コースの場合は3年間の学費を支払うことになります。
ロースクール(法科大学院)修了後の進路
ロースクールを卒業した後には、主に法曹(弁護士・検察官・裁判官)としての就職を目指す人がほとんどです。それぞれの進路について解説します。
まずは司法試験を受験する
ロースクールを修了したら、まずは司法試験を受けることになります。原則としては、ロースクールを修了した者は、修了直後の4月1日から5年間の受験期間内で5回まで、司法試験を受験できます。
司法試験に合格後は、1年間の司法修習を受けます。司法修習では、法曹で働く実務的なスキルや職業意識、倫理観を身につけます。二回試験と呼ばれる卒業試験を受け合格すると、司法修習を終えることとなります。その後、弁護士、検察官、裁判官のいずれかの資格を取得します。
ロースクール(法科大学院)在学中に予備試験に合格した場合
ロースクール在学中に司法試験の予備試験に合格した場合は、ロースクールを修了することなく、司法試験の受験資格を得られます。
ロースクール(法科大学院)在学中に司法試験も受験できる
2023年度より、以下の条件を満たす場合は、ロースクール在学中でも司法試験を受験できるようになりました。
- 司法試験が行われる日の属する年の4月1日から1年以内に、ロースクールの課程を修了する見込みがあること
- ロースクールにおいて所定科目の単位を修得していること
ロースクールを修了する前に司法試験にチャレンジできるようになり、法曹資格取得までの時間的負担や経済的負担を軽減できるでしょう。
弁護士
弁護士とは、依頼を受けて法律事務を処理する専門職です。弁護士は、さまざまな憲法や法令を使って基本的人権を擁護し、社会正義の実現を使命としており、以下のような業務に携わります。
- 裁判において、被告人を弁護する
- 依頼者からの法律相談でアドバイスを行う
- 法律に関する書面を作成する
- 裁判手続を依頼者の代わりに行う(代理)
民事裁判や刑事裁判に携わるだけでなく、企業法務や家庭の困りごとの相談など、幅広い職務を担当することになるでしょう。
検察官
検察官は、刑事事件を捜査・処分する国家公務員であり、法律を適用し、国民の権利と利益を守ることを使命としています。主な業務は警察から送検された被疑者の取り調べを行い、起訴するかどうかを決めること、起訴した場合には裁判所で公判を行い被告人に対する量刑を求めることです。他にも以下のような業務に携わることがあります。
- 公益法人や政治資金などの監督
- 国家賠償請求や国家不法行為訴訟などにおける、国側の代理
- 司法修習生や新任検察官の教育・指導
裁判官
裁判官は、民事裁判や刑事裁判において、公平で中立な立場から事件について判断し、判決を下す国家公務員です。裁判官の業務は、民事裁判と刑事裁判に分けられます。民事裁判では、個人や法人間の権利義務に関する紛争を解決します。刑事裁判では、刑事事件の被告人に対する刑罰を決めます。
大学院法学研究科修了後の進路
続いて大学院法学研究科修了後の進路を3つ説明します。
一般企業
1つ目は一般企業への就職です。法学研究科では、税法・民法・会社法・競争法・知的財産法・個人情報保護法などの専門知識を身につけられるため、法務部や財務部などの即戦力として求められることが多いでしょう。
また、法務部以外にも、営業や企画、コンサルティングなど幅広い職種に適性があります。法学研究科では研究を通して、論理的に分析し、プレゼンテーション等で正確に表現する力を身につけることができます。顧客の要望や問題点を理解し、説得力のある提案や解決策を作成するためには必須のスキルです。
士業
法曹以外の士業の国家資格を取り、資格職に就くという選択肢もあります。法曹以外の士業には、以下のようなものが挙げられます。
- 司法書士…不動産登記や商業登記など各種登記手続きや相続手続き等を行う
- 税理士…税務申告や税務相談等を行う
- 行政書士…許認可申請等各種行政手続き等を行う
- 弁理士…特許出願等知的財産権関係手続き等を行う
これら士業は難関とされる国家資格ですが、法学研究科では、資格試験に関連する科目を履修できます。
大学教員や研究者
法学研究科で博士課程まで進めば、大学や研究機関で教員や研究者になる道が拓けます。
大学院法学研究科の教員は法学やその関連分野の専門家であり、大学院では基礎理論を掘り下げることができるほか、人権やジェンダー、消費者保護、情報社会における法の整備など現代的なテーマまで、幅広く興味のある分野を研究できます。
場合によっては、行政や企業にアドバイスなどを求められたり、研究成果が法律や公共政策に影響を及ぼすこともあるかもしれません。法学は社会科学であるため、研究が直接社会の問題に適用され、社会貢献に繋がりやすい点は大きなやりがいの1つでしょう。
まとめ:法学の専門知識をつけたい場合、法学研究科も検討しよう
法曹として働くための基礎知識を身につけたい、司法試験に合格したいという方には、ロースクールへの進学がおすすめです。ケーススタディに参加したり、教員や同じ志を仲間を持った仲間と交流したりする中で、法曹の専門知識や実践的なスキルを身につけられます。
一方、入試や授業の内容は司法試験に沿ったものになっており、法学やその関連分野について深く学ぶことは難しいでしょう。
法学について専門的かつ学術的な知識をつけたい場合は、学術研究を主とする法学研究科への進学がおすすめです。法学の基礎理論や応用分野、現代社会の課題など、法学や関連分野をを研究し、自らの興味を突き詰められます。法学分野の学術的な研究に興味がある方は、法学研究科への進学を検討してみましょう。