大学院進学

学士・修士・博士の違いは?社会的評価や就職事情などの違いを解説

学位には、学士・修士・博士などがあります。大学(学部)で取得できるのが学士、大学院で取得できるのが修士や博士です。それぞれ求められる専門性や取得難易度、社会的評価、就職事情などが異なります。進路を選択する際は、学位ごとの違いを理解し、将来を見据えて意思決定することが大切です。

今回は、学士・修士・博士の違いについて解説します。

学位の種類

冒頭で述べた通り、学位には学士・修士・博士などがあります。以下では、それぞれの概要について見ていきましょう。

学士とは

学士とは、大学(学部)を卒業した人に授与される学位のことで、英語ではBachelor’s Degreeと言います。

規定の学士課程(学部)の卒業要件(必要単位を取得や卒業論文の合格など)を満たして卒業することで授与される学位です。

なお、短期大学を卒業した場合は、短期大学士という学位が授与されます。

修士とは

修士とは、大学院の修士課程(博士前期課程)を修了した人に授与される学位のことです。英語ではMaster’s Degreeと言い、「マスター」と呼ばれることもあります。

修士課程(博士前期課程)において必要単位を修得し、かつ修士論文などの審査へ合格して課程を修了することで授与されます。

博士とは

博士号とは、博士論文の審査に合格した人に授与される学位のことです。英語ではDoctor’s DegreeやPhDと言い、「ドクター」と呼ばれることもあります。

博士は、取得方法によって以下の2つ(課程博士・論文博士)に分けられます。どちらも博士号であることに違いはありません。

課程博士:博士課程(博士後期課程)に3年以上在籍し、所定の課程を修め、博士論文の審査に合格して課程を修了した人に授与される
論文博士:所定の課程を経ることなく(博士課程に在学することなく)、博士論文を提出して審査に合格した人に授与される。「課程によらない博士」とも言われる

多くの場合、博士課程(博士後期課程)修了時に授与される課程博士の取得を目指します。課程博士を取得するためには、修士課程(博士前期課程)の2年間と博士課程(博士後期課程)の3年間を合わせて、基本的には大学院に最低5年間在籍することになります。

学士・修士・博士の違い

ここでは、学士・修士・博士の違いを、以下の4つの観点から見ていきましょう。

  • 人数
  • 求められる専門性
  • 取得難易度
  • 社会的評価

人数の違い

文部科学省の「学校基本調査」によると、大学生と大学院生(修士課程・博士課程)の人数は、それぞれ以下の通りです。

学位 人数 割合
大学生 2,945,807人 92.3%
大学院生(修士課程) ​​168,722人 5.3%
大学院生(博士課程) 75,856人 2.4%
合計 3,190,385人 100%

出典:文部科学省「学校基本調査 令和5年度(速報)」

割合で見ると、大学院生の数が極めて少ないことがわかるでしょう。博士課程在籍者に至っては、全体の2%強にすぎません。

なお、上記は令和5年時点での在籍人数であり、学位の取得者ではありません。しかし、学士に比べて修士や博士を取得している人は非常に限られていると言えます。

求められる専門性の違い

学士・修士・博士は、それぞれ取得するために求められる専門性が異なります。

学士と修士・博士の違い

まずは、大学と大学院の目的や役割の違いについてです。

学校教育法第八十三条では、大学の目的について以下のように規定されています。

「大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする。」

出典:e-Gov法令検索「学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)」

つまり、大学(学部)は幅広い知識を身につけ、専門知識や能力を発展させることを目的とする学びの場です。

一方、大学院の目的については、学校教育法第九十九条で以下のように規定されています。

「大学院は、学術の理論及び応用を教授研究し、その深奥をきわめ、 または高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力を培い、 文化の進展に寄与することを目的とする。」

出典:e-Gov法令検索「学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)」

このように、大学院は高度な専門性を身につける場であり、そこで得た知識を社会や学問の発展に活かすことが期待されています。

つまり、学士に比べると、修士や博士を取得するためには高い専門性が求められることが分かるでしょう。

修士と博士の違い

修士課程と博士課程それぞれの目的については、文部科学省の資料で以下のように記載されています。

「修士課程は、広い視野に立って精深な学識を授け、専攻分野における研究能力又はこれに加えて高度の専門性が求められる職業を担うための卓越した能力を培うことを目的とする。」

「博士課程は、専攻分野について、研究者として自立して研究活動を行い、又はその他の高度に専門的な業務に従事するに必要な高度の研究能力及びその基礎となる豊かな学識を養うことを目的とする。」

出典:文部科学省高等教育局大学振興課「大学院教育の現状と課題」

つまり、博士を取得するためには、研究者として自立して研究活動を行い、専門的な業務に従事できるだけの高度な研究能力が必要です。修士を取得する場合に比べて、さらに高い研究能力が求められます。

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取得難易度の違い

学位取得の難易度(学位授与にあたって求められる水準)は、学士、修士、博士の順に高くなります。

学士は、大学在学中に必要な単位を取得し、卒業論文や必要な試験に合格することで取得できます。

一方、修士や博士を取得するためには、学士よりもさらに高い専門性が必要です。

修士を取得する難易度

修士の学位取得は学士の学位取得よりもさらに難易度が高くなると言えます。

修士を取得するためには、そもそも大学院入試に合格することが必要です。大学院入試では、専攻する分野に関する知識はもちろん、進学の動機や意欲、入学後の研究計画が問われます。入学後は、自身の専門分野に関する見識を深め、研究で一定の成果をあげ、修士論文を執筆し、審査に合格することが必要です。学士に比べると専門性が求められ、難易度も高くなると言えます。

博士を取得する難易度

博士の学位を取得するためにはプロの研究者として認められる必要があり、取得難易度は非常に高くなると言えるでしょう。

博士を取得するためには、博士学位請求論文を提出して審査に合格することが必要です。博士論文として審査に合格するまでには、長い道のりを経る必要があります。大学院・研究科によって異なりますが、まずは複数回にわたる事前審査・予備審査に合格しなければなりません。

そして、最終審査では論文としてまとめた自身の研究成果を審査委員に対してプレゼンテーションします。最終審査は公開の場で行われることもあり、質疑応答では厳しい質問や指摘を受けることも少なくありません。

社会的評価の違い

学士・修士・博士ともに、大学や大学院が求めるレベルの学問を修めたことを証明できる学位です。

中でも、修士・博士については、特定の分野に関する専門的な知識と研究能力の高さをアピールできる学位です。専門的な職業にも就きやすくなるでしょう。

特に、博士の学位を取得しているということは、海外でも高く評価されます。

学士と修士の初任給の違い

学位別の社会的評価の違いを理解する指標として参考になるのが初任給です。

厚生労働省が発表した「令和元年賃金構造基本調査結果」によると、学歴別の初任給は以下の通りです。

最終学歴 初任給
大学院修士課程修了 238,900円
大学卒業 210,200円
高専・短期大学卒業 183,900円

このように、修士課程(博士前期課程)修了(修士取得者)は大学卒業(学士取得者)に比べて、初任給が3万円ほど高い傾向にあります。企業が、修士課程(博士前期課程)修了者が持つ専門性や研究能力を評価していると言えるでしょう。

参考:厚生労働省「令和元年賃金構造基本統計調査結果(初任給)の概況:1 学歴別にみた初任給」

学士・修士・博士の就職事情

以下では、学士・修士・博士の就職について、求められるスキルの違いや就職先の違いを解説します。

求められるスキルの違い

学士取得者には、専門知識やスキルよりも、ポテンシャルが求められる傾向にあります。

仕事で必要な知識やスキルの多くは、就職後に実務を通じて身につけられるものです。そのため、就職活動においては、土台となるポテンシャルや仕事への積極性、タフに働ける粘り強さ、社会人としての基礎力などが評価されます。

一方、修士や博士の学位取得者には、大学院で身につけた専門性が求められることが多いです。特に、研究職や開発職、専門職などに就く場合は、研究内容や研究実績が評価対象となります。

就職先の違い

学士を取得することで、民間企業の総合職や一般職といった多くの職種への進路が拓けるでしょう。

公的機関や民間企業の研究職や開発職、専門職に就くためには、修士以上が求められるケースが多いです。例えば、臨床心理士の資格を取得するためには、基本的には大学院の修了が求められます。

また、公的機関の研究職や大学・大学院の教員に就くためには、博士を取得することが要件に定められている場合がほとんどです。これらの仕事には、極めて高度な知見や研究能力が求められるためです。

そのほか、企業で一定程度の就業経験を積み、管理職や経営陣に加わる際に、会計・経営・マーケティングなどの高度な知識を有していることが求められることがあります。近年においては、特にIT系や外資系企業では課長や部長といった役職については社内公募といった手続きが取られることがあり、その人がどのような知識を有しているか、どのような学位を持っているかということをもとに選考されることもあります。そうした場合、より上位の役職に就くために、大学院に進学し、必要な知識や学位を取得することが必要になってきます。

このように、高度な専門性が求められる仕事に就きたい場合は、基本的には修士や博士の取得が必要である、と理解しておきましょう。

進路を選択する際のポイント

学士(学部卒業)で就職するか修士課程に進むか、あるいは修士(修士課程修了)で就職するか博士課程に進むか迷った場合は、まずはそれぞれの道に進むメリットや目的を考えることが大切です。それぞれのメリットを理解した上で、自身がその道に進んで何をしたいのかを考え、進路を選びましょう。

学士を取得して就職するメリット

学士を取得して就職することには、以下のようなメリットがあります。

  • 実務経験を早く積める
  • ポテンシャルが重視される場合が多い

大学院に進学しない分早く就職するため、実務経験を早くから積めるのは大きなメリットです。

また、学部卒にはポテンシャルを求める企業が多く存在します。そのため、「仕事で必要な知識やスキルが不足している」という理由で不採用になる可能性は低いでしょう。

学部卒の新入社員に対して、熱心に研修や教育を行う企業も多いです。OJT(On the Job Training)という日常の業務にあたりながらの先輩社員から新入社員への指導を通しても、必要な知識やスキルの教育が図られます。そのため、社会人として活躍できるか不安な方も、仕事に必要な知識やスキルを問題なく習得できるでしょう。

大学院に進学して修士を取得するメリット

一方、大学院に進学して修士を取得するメリットは以下の通りです。

  • 興味関心のある分野を突き詰めて研究できる
  • 学部よりも高い専門性を身につけられる
  • 論理的思考力や分析力など、研究に必要なスキルも習得できる
  • 専門性の高い職業や高い役職に就けるチャンスが広がる
  • 学部卒よりも初任給が高い傾向にある

大学院では、学部よりも研究に使う時間が増えます。興味のある分野に没頭し、高い専門性を身につけられる良い機会となるでしょう。

また、研究を通して論理的思考力や分析力を身につけられるのも魅力です。これらは、社会人として活躍するためにも必要なスキルです。

さらに、前述の通り専門性の高い職業に就くチャンスが広がることや、初任給が高く設定されている可能性が高いというメリットもあります。

博士課程に進学して博士を取得するメリット

さらに、博士課程に進学して博士を取得することには、以下のようなメリットがあります。

  • 研究能力や特定分野への専門性の高さを証明できる
  • グローバルに活躍する研究者としてのキャリアが広がる

博士を取得することで、その分野の専門家であることを対外的に証明できます。

また、博士は世界的にも通用する学位です。グローバルに活躍する研究者になりたい場合は、博士の取得が必須と言っても過言ではありません。

博士を取得することで、研究者としてのキャリアを広げられるのが大きな魅力です。

まとめ:専門性を身につけたいなら修士や博士に挑戦しよう

学士・修士・博士は、求められる専門性や取得難易度、社会的評価などに違いがあります。
専門性の高さが評価されるのは、修士や博士の取得者です。中でも博士は、研究能力の高さや専門知識を証明できる学位です。専門性を身につけたい方や、研究職や専門職に就きたい方は、修士や博士の取得に挑戦してみてはいかがでしょうか。

もちろん、学士を取得して就職することにもメリットはあります。進路に迷っている方は、学位ごとの違いや就職事情を理解した上で、その道で何をしたいのかを考えましょう。そして、自身の夢や目標を叶えられる進路を慎重に選ぶことが大切です。