大学院進学

アーキビストになるために大学院に行くべき?学べる内容を解説

公文書館や図書館で文書管理を行う「アーキビスト」は、近年需要の高い職種の1つです。アーキビストになるために大学院に進学すべきか迷っている方もいるでしょう。

本記事ではアーキビストの業務内容や、アーキビストになるために大学院で学べる内容について解説します。

アーキビストとは

アーキビストは、公文書館などで働く記録管理の専門職です。将来に継承すべき情報資源の整理や分析を行い、利用者が活用しやすい形で保管する役割を担います。

具体的には、歴史的な文書やデジタルデータ(アーカイブズ)を保管します。さらに、新しい情報を査定したり、情報を保管するデータベースを作ったりする技術が求められることもあります。アーキビストの詳しい業務内容については後述します。

アーキビストは官公庁や公文書館、図書館などに就職することが一般的です。ヨーロッパでは18世紀末頃からすでにアーカイブズを適切に管理して、市民の共有資源とするための制度が注目されてきました。日本で注目を集めるようになったのはここ十数年の間です。文書を保存・管理する意識の向上や、取り扱えるデータ量の増加により、アーキビストの需要は高まっています。

アーキビストの業務内容

アーキビストの3つの業務内容を紹介します。

  • 文書の収集と保管
  • デジタルデータの保存
  • 歴史資料のプロモーション

文書の収集と保管

アーキビストの最も重要な業務は、文書の収集と保管です。書籍や雑誌だけでなく、古文書や古写真など、さまざまな資料の収集と保管を行います。公文書館や図書館では、収集した文書を利用しやすい形で保管します。また、官公庁では、行政資料を整理し保管する役割を担います。

アーキビストには、どの文書が重要かを慎重に判断することが求められます。歴史的価値、文化的重要性、社会的な意義など、多岐にわたる視点が重要となります。また、文書を欠損させず、適切な方法で保管するためには、文書保管に関する専門知識も必要です。

デジタルデータの保存

アーキビストは情報をデジタルデータ化し、保存する作業も行います。

デジタルデータへの保存の作業は、単に紙の文書をスキャンするだけではありません。文書の作成者などの情報をもとに整理してデータベース化したり、ホームページで閲覧できるようにしたりする業務を行います。

また、デジタルデータを利用するユーザーのサポートを行うこともあります。検索システムの開発や利用ガイドの作成など、データを利用しやすい仕組みを作ります。蓄積したデータは研究や学習支援、地域の振興、防災など多様な分野に活かされるため、社会へ果たす役割はとても大きいです。

歴史資料のプロモーション

多くの人々が歴史的資料に興味を持つようプロモーション活動に努めることも、アーキビストの役割の1つです。

プロモーションのため、展示会の企画や講演会の実施、メディアへの紹介など多岐にわたる活動をします。展示会では、訪れた人が楽しめるよう、歴史的な背景や文化的な意義を伝えるための解説や展示方法に工夫を凝らします。

また、WEBサイトや雑誌などのメディアへ、アーキビストの業務内容や社会的意義、歴史的資料を紹介したり、その背後にある歴史や文化の解説を掲載したりすることも重要な業務です。アーキビストの活動や、文書、資料の紹介をさまざまな媒体で行うことにより、多くの人に興味を持ってもらいます。

大学院でアーキビストを目指す意義

アーキビストになる過程において、大学院はとても有用です。一部の大学院ではアーキビスト養成コースを用意しており、アーキビストに必要とされる専門的な知識と技術を習得できるためです。

アーキビスト養成コースでは、資料の保存、整理、分析など、アーキビストの業務に直結したカリキュラムを提供します。デジタルアーカイブの技術から公文書管理、歴史学、文化財学などの幅広い分野が網羅されています。学生は専門的な教育を受けることができ、卒業後の職業選択の幅が広がります。

アーキビストを目指せる研究科

アーキビスト養成コースが用意されている大学院は限られているので、「アーキビスト養成」に特化したコースがない一般的な研究科に進学することを視野に入れてもよいでしょう。

例えば、文学研究科や社会学研究科では、アーカイブズ学や図書館情報学など、アーキビストの実務に役立つ学問を学べます。史学系の専攻にアーキビストに関連する科目が設置されている場合もあります。

アーカイブズ学は文書の保存や分析の方法を学ぶ学問です。図書館情報学は図書館における情報の保存、提供方法を研究する学問分野です。

研究科によっては歴史的文書の解読法や文化的背景を研究する授業など、アーキビストに必要な学問が提供されています。幅広い学問を通して、アーキビストに求められる広い視野や柔軟な思考を育める点でも大学院進学はとても意義のある進路だと言えるでしょう。

アーキビストになる方法

アーキビストとして働くためには、各公文書館や官公庁が実施する採用試験に合格する必要があります。

資格は必要ありませんが、採用試験では専門的な知識や技術が求められます。そのため、大学院でアーカイブズ学などの専門分野を研究した経験は採用試験で評価されるでしょう。

加えて、「認証アーキビスト」の資格を取得すると良いでしょう。この資格はアーキビストになるうえで必須ではないものの、専門的な知識と技術の証明として認められています。

アーキビストの就職先

アーキビストの主な就職先として以下の3つが挙げられます。

  • 公文書館
  • 図書館
  • 博物館・資料館

公文書館

アーキビストの代表的な就職先として公文書館が挙げられます。

公文書館は、政府機関や地方自治体の公的な文書や記録を保存、整理し、閲覧できる役所です。このような文書は行政の業務に重要な資料となるため、適切な保存と管理が求められます。

また、公文書館に務めるアーキビストは、歴史的価値を持つ文書の保護や研究者への資料提供などの重要な役割を担います。重要な記録を守ることで、社会に貢献している意識を持てる点が大きなやりがいとなるでしょう。

図書館

図書館も、アーキビストの代表的な就職先です。

アーキビストは、大学や学校、自治体、国立国会図書館など、さまざまなタイプの図書館で活躍できます。大学生が学びを深める手助けをしたり、子供から年配の人までさまざまな人々が利用しやすいよう、資料を整理したりするなど、幅広い業務に携われるでしょう。

博物館・資料館

博物館や資料館もアーキビストの就職先の1つです。

博物館・資料館は、人類の文化や自然の歴史に関連する物品を収集、保存、展示、研究する施設です。芸術や歴史、科学などの分野における専門知識や技術を提供します。

アーキビストの業務には、文化遺産の保護と展示だけでなく、展覧会や講演会の実施などプロモーションに関するものも含まれます。また、教育機関と連携し、学生や一般市民への博物館の資料や歴史を理解する機会の提供も重要な業務です。

アーキビストに求められる5つの能力

アーキビストに求められる5つの能力を解説します。

  • 歴史や文化に関する知識
  • 公文書管理法とアーカイブス学の理解
  • 調査研究能力
  • 情報処理能力
  • ITスキル

歴史や文化に関する知識

保存すべき資料を判断するには「歴史や文化に関する知識」が欠かせません。歴史的な出来事や時代背景、文化的な価値や意義を理解することで、資料が持つ重要性を正確に評価できます。

また、保存した資料を一般の人々へ公開したり、研究者に提供したりする際のサポートにも知識が必要です。展示会の企画やガイド、教育プログラムの実施など、アーキビストが関わるさまざまな場面で、歴史や文化の背景を的確に説明し、資料が持つ意義を伝える能力が求められます。

専門知識があれば、特定のテーマに基づいた展示や教育プログラムの企画など、自ら新しいプロジェクトを企画することもでき、業務の幅が大きく広がります。

公文書管理法とアーカイブス学の理解

アーキビストは「公文書管理法」の枠組みに従い、公文書を適切に管理・保存する責任を担います。そのため「公文書管理法」の趣旨を理解し、それに基づいて業務を遂行する必要があります。

「公文書管理法、同法施行令(平成 22 年政令第 250 号)」は、公的な記録である公文書の管理・保存に関する規範を定めた法律です。

また、アーカイブス学への理解も重要です。アーカイブス学を通し、利用者に手軽に文書にアクセスしてもらうための方法や、文書を適切に保存する手段について学べます。例えば、紙の文書の適切な保管温度や湿度や温度を学習できます。

調査研究能力

アーキビストには調査研究能力も求められます。調査研究能力は、新しい情報を調査したり、調査した内容を深堀したりする能力です。

アーキビストは、今まで触れたことがない分野でも一から情報を収集して、資料の分類や紹介を行う必要があります。歴史や文化に関する知識をもとに、文書の関連性を明らかにしたり、資料を評価したりする力が重要になります。

情報処理能力

利用者が文書にアクセスしやすい仕組みを作るためには、膨大な量の情報を効率的に処理する「情報処理能力」が不可欠です。多数の文書に触れた際に、分類や保存の方法を的確に判断する際にとても重要なためです。

アーキビストに必要な情報処理能力は、図書館情報学を通して身につけられます。図書館情報学では、文章の適切な提供方法や図書館におけるデータベースの活用方法などを学べます。

ITスキル

ITスキルは、文書や資料のデジタルデータへの保存、管理、活用などに大きく関係します。
資料のデジタル化のためには、デジタルツールを用いた資料の分析など、基本的なITスキルが必要です。また、デジタル化した資料をどのように保管し、整理するためのデータベース管理のスキルも求められます。

オンラインでの情報提供にもITスキルが不可欠です。インターネットを通じて、歴史的資料を多くの人々に提供するためには、利用者が使いやすいようにウェブサイトを設計する能力が求められます。

まとめ:アーキビストを目指すのに適した大学院を選ぼう

アーキビストは歴史や文化の面で価値のある情報だけでなく、将来の研究や行政の施策のもととなる資料の保存に携わる、社会的に大きな意義のある職業です。

専門知識やスキルが求められるため、大学院で専門的な講義を受け、研究を行うことが望ましいでしょう。

中央大学大学院でもアーキビスト養成プログラムを用意しています。アーカイブズ学や図書館情報学など、アーキビストになるために必要な学問を履修できます。

このプログラムを修了すると、独立行政法人国立公文書館による認証アーキビストに認定されるために必要な(イ)知識・技能等(高等教育機関の科目履修又は研修修了)、(ロ)調査研究能力(修士課程修了レベル)、(ハ)実務経験(アーカイブズに係る実務経験原則3年以上)の3要件のうち、(イ)知識・技能等を満たすことができます。

プログラムでは、実務研修も提供しているため、歴史的文書の保存や復旧、審査などを実践的に学べます。興味がある方はぜひお問合せください。