大学院の入学試験を受験するにあたって、さまざまな書類を事前に提出する必要があります。そのなかの1つが「志望理由書」です。志望理由書は「出願理由書」や「志望動機書」と呼ばれることもあります。
志望理由書は、入学への熱意や進学の目的、入学後の研究に関する自分の考えを伝える重要な書類であるため、念入りに準備する必要があります。本記事では、志望理由書を提出する目的や書き方のコツを紹介します。
大学院入試で志望理由書を提出する目的
初めに、大学院入試で志望理由書を提出する目的を説明します。
大学院進学の目的やその大学院・教員(研究室)を選んだ経緯や熱意を伝えるため
志望理由書は、志望理由(志望動機)という名のとおり、「なぜ大学院へ進学し、そのテーマについての研究をしたいのか」を伝えるためのものです。志望理由書では「その大学院で研究をしたい理由やその教員(研究室)のもとで指導を受けたい理由」を、いかに明確に伝えるかが重要です。希望する大学院の特徴(カリキュラム・研究指導体制・各種制度・施設設備等)を事前に調べたうえで、自分がその教員(研究室)のもとで研究を進めたい趣旨を述べる必要があります。大学院や教員を調べるにあたっては、自身の問題関心や研究テーマを明確にし、それらへの理解を深めておくことが大切です。
研究内容が明確であることを伝えるため
大学院はただ知識や技能を学ぶのではなく、専門性の高い「研究」をするための場所です。そのため、志望理由書では「なぜこのテーマを研究したいのか」「具体的にどういった研究をしたいのか」を明確に伝えることが求められます。
ただし、研究内容に関しては別で提出が必要である「研究計画書」に詳細を書くことになります。そのため、志望理由書では研究内容の要点だけを伝えつつ、志望理由と一貫性を持たせながらまとめるようにしましょう。
評価される大学院の志望理由書の特徴
大学院の志望理由書は、本人の研究に対する問題意識や意欲、姿勢などを見るうえで重要な書類となります。ここからは具体的にどのような志望理由書が評価されるのかを説明します。
研究テーマを定めた理由・きっかけが論理的である
志望理由書は、研究テーマを定めた理由・きっかけが論理的であるかが重要です。大学院での研究テーマは、基本的に大学(学部)で取り組んできた研究が土台となります。社会人経験者であれば、自身の経験に基づいた問題意識や関わってきた対象について学術的な視点から探究したいという意欲が出発点となる場合が多いでしょう。
大学で取り組んできた研究やこれまでの経験に対してどのような問題意識を持ち、どうしてそのテーマを追究したいと思うようになったのか、志望動機を論理的に伝えることが望ましいです。
ほかにも、将来就きたい仕事で専門性が必要であり、そのために大学院での研究をより深めたいということも理由として成り立ちます。このように、志望理由書ではいかに論理的に説明できるかが重要なポイントとなります。
研究内容が明確である
「何を研究対象とするのか」、「どのような方法で研究を進めるのか」も明確であるとよいでしょう。ただ自分の経験だけでなく、データを示して説得力をもって書かれていることが重要です。詳細については研究計画書にまとめるため、要点だけを説明する形になります。
修了後のキャリアを踏まえている
大学院に入学してからの内容だけでなく、現時点で考えている修了後のキャリア(進路)まで伝えるとよいでしょう。「大学院での研究内容を活かし〇〇を研究する職に就きたい/大学院で△△という専門性を身につけて、◇◇といった業界や職種で働きたい」など、なるべく具体的にキャリアプランを伝えるようにしてください。
大学院での研究内容を将来どのように生かしていきたいか、事前に考えておきましょう。特に博士前期課程(修士課程)を受験する場合には、博士後期課程への進学を希望しているかなども明確にしておくのが望ましいです。
志望理由書の構成
志望理由書の基本的な構成・書き方の一例を紹介します。なお、大学院によって書き方が指定されているケースもあるので、事前に確認してから準備に取り掛かるようにしましょう。
①志望理由・志望動機
まずは結論ファーストで、大学院で学びたい・研究したい理由を簡潔に記載します。現在在籍している大学やこれまでの研究内容などを伝えたうえで、進学理由を述べるとよいでしょう。
②志望に至った経緯・きっかけ
①で簡単に志望動機を伝えたら、次に「何を考え、何に問題意識を持ち、何を研究したいと思ったのか」という志望に至った経緯・きっかけを伝えます。問題意識の背景を説明する際には、ただ自分の経験だけを伝えるのではなく数値やデータ、実績などを引用しつつ、論理的に述べることを意識しましょう。
漠然とした志望理由ではなく具体的で明快な内容を書いて、志望動機に説得力を持たせることが重要です。
③研究内容
③では、研究対象・研究の進め方・熱意を伝えます。研究内容については研究計画書に細かく記載するので、ここでは簡潔に説明しましょう。ほかの大学院ではなく、この大学院・この教員(研究室)が望ましい明確な理由を伝えることが重要です。
④修了後のキャリア
大学院で学んだ専門知識などをもとに、修了後にどのように活かしたいのかを述べます。「研究者を目指して博士後期課程に進学したい」、「〇〇業界や△△の分野に就職したい」など、大学院での研究内容が自分のキャリアにどのようにつながるかを書くようにしてください。
志望理由書の例文
◇◇大学大学院 ◇◇研究科 ◇◇専攻
①志望動機
私は、将来日本の経済・産業の発展に貢献したいと考えている。そのために、私は◇◇(〇〇学や△△分野等)について研究することにより、成長の著しい東南アジアと日本の経済に関する実践的な知識や幅広い能力を身につけたい。
②志望に至った経緯・きっかけ
経済学を学びたいと思った経緯は、学部時代にグローバル経済について学び、そのなかで東南アジアの経済成長に触れたことがきっかけである。2021年のASEAN諸国の実質GDP成長率の統計によると、シンガポールは前年比7.6%、インドネシアは3.7%、マレーシアは3.1%と着実に成長を続けている。実際に自分も東南アジアを旅するなかで、東南アジアの成長と経済回転に驚いた。
大学の卒業論文(卒業研究)でも東南アジアの経済について研究を続けたが、時間も限られており、さらに時間をかけて研究を進めたいという気持ちがある。また、まだ就職をするには自分に知識や能力が不足していることを実感し、大学院で学ぶことが必要と考えるようになった。
そのような折、私は貴大学大学院◇◇研究科の説明会に参加し、◇◇研究科では経済・社会のグローバル化から、財政・金融の問題、企業経営や会計について深くかつ幅広く学べることを知った。その後、私は〇〇教授に連絡をし、こちらの専攻であれば~~~について十分に学習や研究ができ、~~~に関する実践的な知識や幅広い能力を身につけられると感じた。そこで、私は、◇◇大学大学院◇◇研究科に入学したいと考えるに至った。
③研究内容
◇◇大学大学院◇◇研究科では、経済成長の著しい東南アジアの現状や戦略について幅広く研究したいと考えている。特に各国の雇用のあり方について研究し、日本の雇用のあり方と比較するなかで日本の雇用改善へと落とし込みたい。また、各国のローカル企業から大企業までの政策まで研究し、日本企業と比較したい。
④修了後のキャリア
修了後は、国家公務員として経済産業省に入省したいと考えている。大学院での研究で培った知識を実際の日本の経済政策に役立てたい。
志望理由書を書くとき注意点
志望理由書を書くときは、以下2つの注意点に気をつけましょう。
- 事前に形式を確認する
提出前には文章をチェックする
事前に形式を念入りに確認する
志望する大学院・研究科によって、志望理由書のフォーマットや字数の指定があります。指定のフォーマットを使わないと、受理してもらえないケースもあるので注意してください。また、指定された文字数より少なすぎ・多すぎも避けましょう。規則を守っていないと評価されない可能性もあります。
書類の作成にあたっては、入学試験要項(募集要項)や大学のウェブサイトで事前に必ず確認しておきましょう。
提出前には文章をチェックする
提出前には以下の要点を必ずチェックしましょう。
- 誤字脱字がないか
- 文体が「~である・~だ」または「〜です・〜ます」調で統一されているか
- コピペをせず、自分の言葉で書いてあるか
- 志望する大学院の特徴や専門性について自分の思い込みだけで書いていないか
- 記述内容が明確で、相手に伝わる文章となっているか
一通り作成できたら、大学の教員や友人に自分が作成した志望理由書についてフィードバックをしてもらうとよいでしょう。第三者に志望理由書を見てもらうことで、自分では気づかなかった誤字脱字や文章の読みにくさなどの改善点を発見できる可能性があります。
面接で志望理由を聞かれた際の答え方
大学院入試の面接(口述試験)では、志望理由を聞かれるケースがほとんどです。大学院に入学したいという熱意や研究したい内容をアピールするためには、面接でも志望理由を明確に答える必要があります。
以下では、面接で志望理由を聞かれた際の答え方のポイントについて解説します。
志望理由書や研究計画書に基づいて回答する
前提として、事前に提出している志望理由書や研究計画書の内容に基づいて回答するようにしましょう。面接では、志望理由書や研究計画書をベースに質問されるためです。事前に提出している内容と整合性のとれた回答になるよう、面接練習を行いましょう。
なぜその大学院・研究室を選んだのかを説明する
志望理由をアピールするためには、「なぜ他の大学院ではなくその大学院・研究室(指導教員)を志望しているのか」を説明することが大切です。
「学費が安いから」「家から近いから」などの理由では、熱意は伝わりにくいです。以下のようなポイントを簡潔に説明し、その大学院・研究室で研究したいという熱意をアピールしましょう。
- その大学院で研究活動を行う魅力
- 複数の教員の中から、なぜその教員のもとで研究したいのか
- 自身のやりたい研究と、研究室の方向性がどのように一致しているか
- 研究活動を通して何を学んで身につけたいのか
論理的に回答する
志望理由は、論理的に回答するよう心がけましょう。
面接では、学生の論理的思考力についても確認されていると思って臨みましょう。論理的思考力は、研究活動を進めるうえで不可欠な能力であるためです。回答の内容はもちろん、論理立てて志望理由を説明できるかも重視しましょう。
論理的に回答するためには、結論を先に答えた後、その理由や根拠を説明することが大切です。
志望理由を明確に伝えるための面接対策
最後に、面接で志望理由を明確に伝えるためにやっておくべき面接対策を紹介します。
想定質問と回答を考えておく
志望理由に関する質問や、自身の回答に対して寄せられるであろう質問については、事前にリストアップしておきましょう。そして、それぞれに対して回答を考えておくことが大切です。
回答を作ったら、実際に声に出してうまく説明できるよう練習することも必要です。
面接シーンを想像しながらあらゆる角度からの質問を考え、どのような質問にも自信を持って回答できるようにしましょう。
大学院入試の面接でよく聞かれる質問については、以下の記事も参考にしてください。
理由や根拠は複数用意しておく
大学院や教員・研究室を志望する理由や自身の考えの根拠については、複数用意しておきましょう。
面接によっては、複数の理由を答えるよう求められることや、1つの回答に対して「それはなぜ?」と深掘りをされたりする可能性があるためです。
咄嗟に回答した結果、整合性のない理由を並べてしまったり、はじめの志望理由と矛盾した内容を回答してしまったりする恐れがあります。
理由や根拠は事前に複数用意しておき、論理の一貫性がある回答ができるよう準備しておきましょう。
まとめ
志望動機は、大学院入試で大きな評価のポイントとなります。「自分自身が大学院に入学して何を研究したいのか」、「修了後はどのようなキャリアへと進みたいのか」をじっくりと考えたうえで、志望理由書を考えるようにしましょう。
出願書類として「志望理由書」の提出が求められない場合もありますが、面接の際に自身の志望動機を述べることにはなるので、自分自身の考えを予め整理するために作成するというのもよいと思います。
中央大学大学院では、志望動機を「出願理由書」として提出を求めています。研究科や入試方式によって必要な場合とそうでない場合があるので、入学試験要項でよく確認してください。